【元ヤクザ異色対談】司法書士・甲村柳市×弁護士・諸橋仁智(1)今もシャブが目の前にあったら…

 現在、「元ヤクザ」という経歴はハンディキャップになりこそすれ、メリットになることはまずない。にもかかわらず、自身の渡世歴を明らかにする波瀾万丈の半生記を、偶然にも同時期に上梓した2人がいる。しかも、ともに「法外の徒」から「士業」へ異色の転身を遂げたのだから驚きだ。その両者が我が信条から昨今の極道情勢までを語り尽くした!

─まず諸橋先生が5月に、その1カ月後に甲村先生が自著を刊行しました。

甲村柳市氏(以下、甲村) いや、最初はテーマも発売時期もかぶっていて、正直「まいったなあ」と思ったけど、おもしろく読ませてもらいました。

諸橋仁智氏(以下、諸橋) ありがとうございます。

甲村 特に印象に残っているのが、渋谷の交差点で「交通整理」をした話(笑)。あれは、クスリ(覚醒剤)で正常な判断ができなくなっていたわけでしょう。

諸橋 実は、その時の記憶がないんです。後に逮捕された時に、初めて警察から「上半身裸になって、スクランブル交差点で傘を振り回していた」と聞かされただけで、自分としては、いまだに信じられない。この時は逮捕ではなく、「保護」で、僕は精神病院に措置入院させられるわけですが、そうするために警察が大袈裟な報告書を書いたんじゃないかと疑いたくなるぐらい。それが05年3月、28歳の時ですが、当時は幻覚と幻聴に悩まされていたのは事実です。

甲村 ヤクザをしていた頃は大阪にいて、ポン中をたくさん見てきた。幻覚・幻聴で暴れるのは、珍しくなかったね。ただ、僕はクスリをやったことがない。どんな症状かわからんのよ。

諸橋 僕の場合、幻聴がひどかったです。近くから普通に声が聞こえるんです。周囲に誰もいないなら幻聴だと気づきますが、他に誰かがいると、その人の言葉なのか、幻聴かは判断がつかなくなっていました。

甲村 そこまでクスリにのめり込んで、よくやめられたね。僕の知り合いは、ほとんどやめられなかった。

諸橋 確かに簡単ではなくて、5年はかかっています。その間、司法試験の前に司法書士試験に挑戦して、受かったうれしさから、つい手を出してしまったり、5回スリップしました。今だって、目の前にシャブと注射器を置かれたら、手を出したくなる。

甲村 どん底から這い上がって、司法試験に合格したから、よほど根性があると思っていたけど‥‥。

諸橋 むしろ、シャブへの欲求があって、自分は弱い人間なんだと自覚することが重要なんです。だからこそ、シャブが手に入らない環境に身を置いていられると思っています。

諸橋仁智(もろはし・よしとも)1976年福島県生まれ。県内有数の進学校に入学したが大学受験に失敗、浪人中に覚醒剤に手を出し、2浪の末に大学に入るもヤクザの道へ。その後も覚醒剤使用を続け、精神病院の強制入院や逮捕を経験。組からも破門される。猛勉強の末に13年に司法試験に合格する。「元ヤクザ弁護士 ヤクザのバッジを外して、弁護士バッジをつけました」(彩図社)を刊行

甲村柳市(こうむら・りゅういち)1972年岡山県生まれ。21歳頃に五代目山口組の三次団体・義竜会を率いていた竹垣悟会長の盃を受ける。05年の義竜会解散を機に引退後に公務執行妨害罪で逮捕され、収監中に独居房で試験勉強をスタート。出所後も勉強を続けて宅建、行政書士試験は一発合格を果たし、司法書士試験には18年に合格。著書に「元ヤクザ、司法書士への道」(集英社)がある

ライフ