【元ヤクザ異色対談第2弾】司法書士・甲村柳市×弁護士・諸橋仁智(3)ヤクザ・カルチャーの衰退

ーーヤクザ社会の変化についてもお聞きしたい。おふたりともに事務所を新設したわけですが、現役ヤクザはそうはいきません。昨年、25組織ある指定暴力団のうち3組織の「本部」(主たる事務所)が公安委員会によって変更されました。で、ここからがヘンなのですが、3つの新本部のうち2つが、すでに法規制で使用禁止になっています。もうヤクザには組事務所はいらないということなのか?

甲村 私自身は部屋住みの経験がないし、若い衆が会長の身の回りの世話をしているのを横で見ているだけだったから、そこまで組事務所に思い入れはなかったかもしれない。

諸橋 私の場合は、現役時代を振り返ると、組事務所には思い入れがありましたね。確かに、組事務所の雑用は大変で、トイレを素手で掃除するとか、当時は本当にイヤでした。でも、組織のために戦う場面と言ってしまうとカッコつけすぎかな、その多くは犯罪だから(笑)。そういうコトを起こす時、私が思い浮かべていたのは親分の顔じゃなくて、一家のみんながいる事務所の風景でした。「精神的な拠り所」になっていたというのが一番、適切な言い方かもしれません。

ーーそういう意味では、警察当局が組事務所撤去に動くのは、物理的な規制だけでなく精神的にも規制していることになりますね。

諸橋 そこまで意図したかはわかりません。結果的に、そうなっただけかもしれませんが、ヤクザのカルチャーが衰退していっているのは実感としてあります。

甲村 ヤクザ映画なんて、あまり製作されなくなってきているもんね。もっとも新しい作品があっても、そんなに面白くない。私なんか、昭和のヤクザ映画ばかり見ている。

諸橋 そうなんですよ。組事務所に当番で詰めている時、みんなでヤクザ映画を見て、ああでもないこうでもないと語り合いながら、「カッコいい」と思ったものです。こういうカルチャーに魅力を感じるのは、自分よりも年上の世代であって、今の若い人には響かない。つまり、ヤクザになろうという若い人は、どんどん減少しているわけです。

ーーヤクザの高齢化は必然で、絶滅の日も遠くないということに‥‥。

諸橋 法律家として「ヤクザを辞めたい」という相談を受けたら、その協力は惜しまずにしています。でも、「ヤクザ組織自体をなくしてしまえ」という考え方には賛同できないんです。任俠道が持つ精神性、つまり「弱きを助け強きを挫く」に代表されるようなものですが、そういうスピリットだけを受け継ぐ組織があってもいいと思う。代紋を継承する現在のヤクザ組織には受け入れてもらえないかもしれませんが‥‥。

甲村柳市(こうむら・りゅういち)1972年岡山県生まれ。司法書士法人東亜国際合同法務事務所代表。21歳頃に五代目山口組傘下組織に入門。05年に引退するも、公務執行妨害罪で服役する。その独居房で試験勉強をスタートさせ、出所後に宅建、行政書士試験は一発合格を果たし、司法書士試験には18年に合格。その破天荒な半生を昨年、著書「元ヤクザ、司法書士への道」(集英社インターナショナル)にまとめた

諸橋仁智(もろはし・よしとも)1976年福島県生まれ。諸橋法律事務所弁護士。大学受験の浪人中に覚醒剤に手を出し、2浪の末に大学に入るもヤクザの道へ。覚醒剤使用を続け、精神病院へ強制入院、そして逮捕される。組から破門されたのを機に、猛勉強を開始。13年に司法試験に合格。それまでのいきさつを描いた「元ヤクザ弁護士 ヤクザのバッジを外して、弁護士バッジをつけました」(彩図社)が話題に

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