【元ヤクザ異色対談】司法書士・甲村柳市×弁護士・諸橋仁智(3)反社だからやめろは通じない

─他にも元ヤクザで損をしたことはありませんか。

諸橋 これは経歴というわけではないですけど、僕は刺青を入れているので、ゴルフのあとに風呂に入ることができないとか、その手の不便は多々あります。

甲村 僕も入れているから、ほとんどの温泉は入れない。これは不便と言えば不便だけど‥‥。

諸橋 刺青を入れたことでも母親を悲しませてしまいましたが、消したいとは思っていないんです。逆に、諸事情あって未完成の刺青を、今も仕上げたいという気持ちがあるんです。

甲村 それは僕も同じですね。去年だったか、続きを入れに行こうかと考えた。ただ司法書士になった今、さすがにどうかという思いもあって、結果的には入れなかった。が、刺青を仕上げたいという気持ちは変わってないんですよ。

諸橋 不良の文化はアリだと思っていて、ファッションとして刺青は成立しているわけですからね。さらに、誤解されることを恐れずに言うならば、ヤクザ組織だって犯罪さえしなければ、僕はアリだと思うんです。

甲村 それは、堅苦しい言葉でいえば、相互扶助というのかな。仲間を助け合うという人間関係の面でアリということでしょう。

諸橋 そうです。僕の兄貴分だった人は亡くなってしまいましたが、27歳くらい年上で、兄というより父親のような年齢差でした。とにかく優しくて‥‥。中学生で実の父親を亡くしていたこともあって、どこか父の影を感じていました。

─やはり、現在の暴排社会には反対ですか。

諸橋 「暴力団を潰せ」と言う人たちは、本当に社会正義のために主張しているとは思えないんです。排除という言葉のとおりで、「得体の知れない連中を社会から取り除きたい」「ヤクザなんて嫌いだ」という気分で「暴力団をなくせ」と唱えているんじゃないかと。でも、ヤクザ側に立って考えてみてください。自分たちを排除した社会に戻って、そんな社会のために役立つ人間になりたいと思えるわけがないんです。

甲村 そこですよ。排除すればするほど、かえって治安は悪くなると言われる原因は。追い込まれて食えなくなった人たちは罪を重ねるしかないんですから。

諸橋 とはいえ、僕も刑事事件を引き受けて、被告人が組員ならば、一度は離脱を勧めます。実際、それで10人は離脱させています。でも、「ヤクザは反社会的な存在だからやめろ」とは絶対に言わない。「あなたの人生におけるメリットを考えてみて」と説明するんです。

甲村 確かに、ヤクザのままでは合法でもビジネスはできない。口座も作れなければ、住む場所さえ確保できなくなるわけだから、ちょっと考えれば、自分の将来にメリットがあるのはどちらかがわかりますよ。

諸橋仁智(もろはし・よしとも)1976年福島県生まれ。県内有数の進学校に入学したが大学受験に失敗、浪人中に覚醒剤に手を出し、2浪の末に大学に入るもヤクザの道へ。その後も覚醒剤使用を続け、精神病院の強制入院や逮捕を経験。組からも破門される。猛勉強の末に13年に司法試験に合格する。「元ヤクザ弁護士 ヤクザのバッジを外して、弁護士バッジをつけました」(彩図社)を刊行

甲村柳市(こうむら・りゅういち)1972年岡山県生まれ。21歳頃に五代目山口組の三次団体・義竜会を率いていた竹垣悟会長の盃を受ける。05年の義竜会解散を機に引退後に公務執行妨害罪で逮捕され、収監中に独居房で試験勉強をスタート。出所後も勉強を続けて宅建、行政書士試験は一発合格を果たし、司法書士試験には18年に合格。著書に「元ヤクザ、司法書士への道」(集英社)がある

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