【元ヤクザ異色対談】司法書士・甲村柳市×弁護士・諸橋仁智(4)刑務所にこそ勉強部屋を!

諸橋 実は、僕が元ヤクザとカミングアウトするきっかけの1つが、甲村先生の存在なんです。メディアで堂々と話されているのを見て、影響を受けました。

甲村 18年に司法書士試験に受かって、すぐに新聞に書かれたからね。もともと地元では、ヤクザだったことは知れ渡っていたし、最初から隠してないから。

諸橋 それで、甲村先生の著書も発売前に予約して、読ませてもらいました。僕は執行猶予が付いたので服役した経験がないだけに、獄中で資格取得のための勉強を始めたという部分は興味深かったです。

甲村 いや、だからといって刑務所で勉強することはオススメしませんよ(笑)。

諸橋 受刑中の過ごし方として勉強は非常にいいと思ったんで、もう1冊購入して近く服役する人に差し入れしてしまいました(笑)。

甲村 今は個室が与えられる刑務所も増えたというけど、僕が務めていた頃の雑居房は定員オーバーで、勉強なんてできる環境じゃなかったからね。そもそも獄中では、みんなロクなことをしない。NHKの「のど自慢」で出場者の合否にティッシュを賭けるなんてのはかわいい方で、次は逮捕されないようにするには、どうすればいいのか、なんて話ばかりしている。

諸橋 でも、刑務所の中で資格取得を目指すのは、出所後の生活を考えると、本当に素晴らしいこと。同じ志を持つ受刑者を同房にして、資格試験の勉強用雑居房を作るべきですね。そういう処遇を真剣に考えてもらいたいものです。

甲村 それはいいね。刑務作業なんてシャバに出てから役に立たないんだから、本当に役に立つことに時間を使った方がいい。僕はミシン工場に配属されたこともあったけど、縫製の仕事をしたいと思ったことは一度もない。どうせなら、刑務所の中から受験できるようになった方がいい。

諸橋 欠格事由もあって、出所後すぐに資格を直接生かせないかもしれない。だけど、試験に受かることで自信の回復につながりますからね。僕自身がそうでした。ダメな人間だった自分が宅建に合格し、司法書士試験もパスしたことで、少しずつ自信を取り戻していけたんです。たとえ受からなかったとしても、勉強を通じて得た知識は社会で有用なことばかりですから。

甲村 僕は40歳を人生の分岐点と決めて、資格取得を目標に人生を切り替えた。自分を信じることができれば、実際は何歳からでもやり直せるはずです。

諸橋 最近、世間を騒がしている闇バイトに関わった若者たちなら、なおさらやり直しはできる。だから、残りの人生をアウトと諦めないでほしいですね。

諸橋仁智(もろはし・よしとも)1976年福島県生まれ。県内有数の進学校に入学したが大学受験に失敗、浪人中に覚醒剤に手を出し、2浪の末に大学に入るもヤクザの道へ。その後も覚醒剤使用を続け、精神病院の強制入院や逮捕を経験。組からも破門される。猛勉強の末に13年に司法試験に合格する。「元ヤクザ弁護士 ヤクザのバッジを外して、弁護士バッジをつけました」(彩図社)を刊行

甲村柳市(こうむら・りゅういち)1972年岡山県生まれ。21歳頃に五代目山口組の三次団体・義竜会を率いていた竹垣悟会長の盃を受ける。05年の義竜会解散を機に引退後に公務執行妨害罪で逮捕され、収監中に独居房で試験勉強をスタート。出所後も勉強を続けて宅建、行政書士試験は一発合格を果たし、司法書士試験には18年に合格。著書に「元ヤクザ、司法書士への道」(集英社)がある

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