【元ヤクザ異色対談第2弾】司法書士・甲村柳市×弁護士・諸橋仁智(4)今年は特別法制定を目指す

甲村 私はどんな状況になろうと、ヤクザとして生きていくという人はいると思っています。実際、ヤクザじゃないと生きられない人というのは、少なからずいるわけだから。これは個人の生き方の問題であって、私が擁護する話でもなければ否定する立場にもない。

諸橋 それは、おっしゃる通りです。

甲村 しかも、ヤクザを辞めて久しい私が、彼らが置かれた現状を正確に理解できているとも思っていないから、本音ではアレコレ言いたくもない。それでも何か言わなきゃならないとすれば、例えば「振り込め詐欺」。昔は、こんな犯罪はなかったけれど、少なくとも年寄りから金を騙し取るのは、ヤクザだって恥としてきた。なのに、そんな犯罪に手を染めるヤクザがいるというのは、もう「儲けるため」ではなくて「生きるため」に犯罪を繰り返していると考えるべきでしょう。じゃあ、そんなヤクザにしたのは誰なのか?

ーーヤクザ自身が選んだ道なのか、警察の取り締まりが厳しすぎたのか‥‥。

甲村 これは世間様も一緒になって考えてもらいたいところでね。堅苦しい話になるけど、政府の「犯罪対策閣僚会議」による「第二次再犯防止推進計画」というのが昨年、公表された。そこには「就労・住居の確保等を通じた自立支援のための取組」と掲げられ、銀行の口座開設も含めて社会環境の充実を図るとしているんだけど、これらはあくまで努力義務。これでは「生きるための犯罪」はなくならないし、元ヤクザがヤクザに戻ってしまう。だから、こうした取り組みに強制力を持たせることはできないかと思っている。

諸橋 つまり、元ヤクザだから口座を作らせないという銀行とか、賃貸契約を結ばない不動産屋は違法であるとするわけですね。それはいいと思う。

甲村 私らのような「元暴力団員」だけでなく、その家族も排除されるケースもあるわけで、何かしら対策を考えるべきでしょう。

諸橋 実際、元ヤクザの家族が不利益をこうむっているという相談を受けたことがあります。

甲村 これは暴力団排除の問題ではなく、憲法の生存権の問題です。今年は元ヤクザやその家族が不当な扱いを受けないための特別法制定に向けて、何かしら活動を始めたいと考えています。これこそ、元ヤクザとして不利益をこうむっている法律家である私が、取り組むべき問題じゃないか と。

諸橋 そうですね。私もアンチコメントにめげずに、SNSを含め、様々なメディアで引き続き発信していこうと思います。

甲村柳市(こうむら・りゅういち)1972年岡山県生まれ。司法書士法人東亜国際合同法務事務所代表。21歳頃に五代目山口組傘下組織に入門。05年に引退するも、公務執行妨害罪で服役する。その独居房で試験勉強をスタートさせ、出所後に宅建、行政書士試験は一発合格を果たし、司法書士試験には18年に合格。その破天荒な半生を昨年、著書「元ヤクザ、司法書士への道」(集英社インターナショナル)にまとめた

諸橋仁智(もろはし・よしとも)1976年福島県生まれ。諸橋法律事務所弁護士。大学受験の浪人中に覚醒剤に手を出し、2浪の末に大学に入るもヤクザの道へ。覚醒剤使用を続け、精神病院へ強制入院、そして逮捕される。組から破門されたのを機に、猛勉強を開始。13年に司法試験に合格。それまでのいきさつを描いた「元ヤクザ弁護士 ヤクザのバッジを外して、弁護士バッジをつけました」(彩図社)が話題に

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