昨年2月に大規模侵攻が始まった際、「キーウは72時間で陥落する」と伝えるメディアもあったが、結果的には予想外の善戦を見せている。村上氏がこの約1年4カ月を改めて振り返るには、
「兵士の数や弾薬数など、物量では圧倒的に劣るウクライナ軍が善戦しているのは、攻撃の精密性によるところが大きい。対するロシアは『下手な鉄砲も数撃てば─』とばかりに、兵士と弾薬を無駄に消費しているように思えます。また、ロ軍はこれまでに11人もの将官を失っているのも大きい。1人で万単位の兵を動かす将官がこれだけ亡くなっては、指揮系統に支障や混乱が生じるのは当然のことでしょう」
こうしたウクライナ攻勢の裏では、西側諸国の目に見えない情報支援が奏功しているという。
「機体の上部に円盤型の大型レーダーを搭載したAWACS(早期警戒管制機)がロシア空軍機の動きやロシア側の電波情報をキャッチして動向を追っていますし、偵察衛星に関しては、性能でも数でもアメリカがロシアを圧倒しています。衛星画像は数時間ごとに更新され、軍の動きはほぼ筒抜けと言っていいでしょう」
さらに、ロシアの弱点を指摘して黒井氏は、こう続ける。
「現代の戦争において勝敗の鍵を握るのがハッキング技術。アメリカのNSA(国家安全保障局)にはハッキングを専門に扱う部署があるのですが、凄腕のハッカー部隊がロシアの機密情報にアクセスしているのではないか。ロシア側も回線の物理的防護やサイバー防護、通信の暗号化などでハッカー対策に努めているとは思うのですが、アメリカはやすやすと防御壁をすり抜けてロシア軍を丸裸にしている。これまでの戦いぶりから、そう思えてなりません」
今後、ウクライナにはさらに強力な兵器が加わることになる。アメリカのバイデン大統領が、戦闘機F16の供与にGOサインを出したのは今年5月、G7広島サミットでのこと。NATO加盟国にも大量導入されている、通称〝戦うハヤブサ〟でどう戦力アップを図るのか。
「F16の配備はスケジュール面でも不透明な部分は多いものの、ロシア軍の動きを封じるには大きなカードになりうるでしょう。というのも、今後、ロシアが攻勢を一気に強め、戦闘機による空爆を仕掛けてくることも考えられます。ウクライナの主要都市の上空をミグ戦闘機が飛び交うシーンは想像したくもありませんが、空対空の戦いになれば、F16を保有するウクライナが断然有利なのは間違いありません。イタリアとフランスが共同開発した防空システムとともに、制空権の維持に重要な役割を果たすでしょう」(山田氏)
最後の見えない侵略戦争を終わらせるのは、西側諸国の最新兵器か、それとも─。
*画像はウクライナ国防相SNSより
(週刊アサヒ芸能7月20日号掲載)