佐藤治彦「儲かるマネー駆け込み寺」国民年金の納付が困難な場合は保険料減免の手続きを

 給料から天引きで引かれる厚生年金や、自営業や農業、学生などが支払う国民年金などに入っていると、原則として65歳になると老齢年金が支払われる。

 しかし、それだけではない。国民年金に入っている人が死ぬと遺族基礎年金、厚生年金に入っていた人も、遺族厚生年金も支払われる場合がある。遺族厚生年金は給料などによって変わるが、遺族基礎年金は一律で18歳未満の子供がいることが条件。令和5年度の場合には、夫が死んで妻が幼い子供と残された場合は、年間で79万5000円に加えて、子供が1人の場合は22万8700円、2人の場合は、さらに22万8700円が支給される。

 つまり、妻に子供が1人なら102万3700円、子供が2人なら125万2400円を残せることになり、子供が18歳になるまで毎年支払われることになる。例えば3歳の双子を残して死亡した場合は、15年間の遺族基礎年金で1878万6000円を妻に残せるというわけだ。

 この年金額は物価や経済の状況によって毎年微妙に変わっていくが、大体この金額を残せることは忘れないでほしい。

 ここで問題になるのが、自営業や農業などの国民年金を納めている対象者だ。今年度の掛け金は毎月1万6520円。決して安い金額じゃない。しかし、このお金を払っておけば、自分の老後の年金だけではなく、小さな子供がいる場合は、その子供が18歳になった年度の3月31日まで、つまり高校を卒業するまで、毎年年金が支給されることとなる(子供に障害がある場合などは、20歳まで支給されるケースもある)。

 ただし、夫に万が一のことがあった際、役所の人が訪ねて来て、家族のことなどをいちいち丁寧に聞いてくれて「残されたあなた(妻)には遺族基礎年金が支払われます」などとは教えてくれない。なので妻には「子供が18歳未満の時に俺が死んだら、国から遺族基礎年金が支払われるから、ちゃんと請求するように」と伝えておくべきだろう。

 ここで考えてほしいことがある。結婚すると、夫に万が一のことがあったら、と民間の生命保険に入ることは少なくない。そして、万が一の時に4000万円残したいとする。

 しかしその時は、すでに遺族基礎年金で相当の金額が支給されることも計算に入れておくべきだろう。

 仮に1800万円以上の遺族基礎年金をもらえる場合なら、4000万円を残すために入らなくちゃいけない民間の生命保険は、2200万円で十分。その分、毎月の掛け金は安くなる。

 もし、毎月1万6520円の国民年金の保険料を払うのは無理だ、という場合でも、支払わずに放っておかないでもらいたい。役所に行って国民年金の支払いの減免を受けてほしい。多くの場合、払わなくていいという免除の決定をもらうことができるばかりか、たとえ国民年金の保険料を支払っていなくても、先ほど紹介した遺族基礎年金は満額支給される。言ってみれば〝無料の生命保険〟に入っているようなものだ。

 国からの支払い請求を無視するのではなく、きちんと手続きをして支払い免除を受けていれば、いざという時に1800万円以上のお金を妻と子供に残せることは父親としての務めともいえよう。

 年金は無視して放っておけば1円ももらえない。妻と子供のために、そして何より自分の老後のためにも手続きをするべき。恥ずかしいことでも特別なことでもない。この免除(猶予含む)を受けている人は、612万人もいるのだから‥‥。

 最後まで読んでくれてありがとうございます。来週は、老後に夫が先に死んだあとに妻に残す遺族年金の話。とても大切なのでぜひ読んでいただきたい。それでは、熱中症に気をつけてまた1週間頑張ろう。

佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。著書「素人はボロ儲けを狙うのはおやめなさい 安心・安全・確実な投資の教科書」(扶桑社)ほか多数。

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