マイナ保険証で別人の情報が誤登録されたり、公金受取口座で他人の銀行口座が紐づけられたり、コンビニで発行した住民票が他人のものだったり…信じられないようなミスやトラブルが相次ぐマイナンバーカード問題。ところが、6月12日の衆院決算行政監視委員会で野党から責任を問われた岸田首相は、来年秋に健康保険証を原則廃止する方針に変わりはないと明言し、河野太郎デジタル大臣の更迭もないとした。
「今回の問題に関しては、そもそもマイナンバーカードの普及があまりに低調なため、その打開策として“突破力”ある河野大臣を起用。制度的には保険証の廃止というムチと、マイナポイント付与という大盤振る舞いのアメとを使い分けて、実質、マイナンバーカード取得の義務化を二人三脚で進めてきました。なのでここで非を認めてしまえば累が自らにも及ぶため、従来の方針を変えることはないでしょう」(全国紙記者)
そこで、当事者である河野大臣だが、今回のトラブルはあくまでシステムの問題ではなく人為的ミスと強弁。果ては「朝の3時4時まで残業」している職員があるとし、立ち上がって間もないデジタル庁の態勢の問題にすり替えるような発言を行っている。だがこれは、かつて雪印乳業で食中毒事件があった時に社長が放った「私だって寝てないんだ」の逆ギレ発言に通じるものがあり、国民にとっては「そんなの知ったこっちゃねーよ」と言いたくなる話だ。
しばらくすれば世間の騒ぎも治まるだろうと政府はタカを括っているのかもしれないが、マイナンバーカードが浸透するにつれて、今後むしろ面倒になるであろう大きな壁が控えている。スマホ搭載の問題だ。
「マイナンバーカードの普及では、デジタルの本来の意味合いから、最終的にはカードすら介しないスマホ搭載が達成されることになっていて、Androidでは既に5月から『スマホ用電子証明書搭載サービス』が実施されています。一方、日本人のスマホ率の5割強を占めるとされるiPhoneでは、これが手つかずなのです。マルウェアの侵入阻止など、安全性をウリの1つとしているアップルでは、公式ストア、つまりアップストア以外からのアプリの入手を認めていません。ところが政府が進めるマイナンバーカードのスマホ搭載では、アップストア以外の外部経路からアプリを入手する『サイドローディング』を認めさせる方針で進められています。これはアップルとしては飲めない話。そこで昨年12月にアップルのティム・クック最高責任者が来日した際、岸田首相が直々にこの点での協力を求めると、クック氏から『善処する』との言葉は得られたものの、そこから何か進んだという話は聞こえてきません。つまり、現状ではスマホ搭載はかなり限定されたものにしかならず、このままだとマイナンバーカードの利便性も絵に描いた餅に終わらざるを得ないわけです」(同)
世界でも指折りのビッグテックの企業倫理を曲げさせないといけないこの問題。果たして解決策はあるのか。
(猫間滋)