当初はオンライン参加の予定だったものが、急きょウクライナのゼレンスキー大統領本人が来日したことで日本では大いに盛り上がったG7広島サミットだが、裏のテーマだった「グローバルサウス」の取り込みではどうだったのか。
「今回のサミットは、グローバルサウスを代表する国としてインドやブラジル、インドネシアといった国の元首も招待されたことが特徴的でした。そしてG7首脳の間では対ロシア制裁強化で一致したものの、とりわけロシアと近いインドのモディ首相とゼレンスキー大統領が握手したことはロシアに対する大きなプレッシャーにはなる一方、それでもインドは『対話による解決』と従来姿勢を変えることはなかった。ブラジルに至ってはルラ大統領とゼレンスキー氏の会談は実現せず、かえってロシア寄りの姿勢が際立つ結果となりました」(全国紙記者)
そのためサミットで悪者扱いされたロシアが言う「グローバルサウスの多くはG7の立場とは異なり」「G7は世界の総意ではない」との主張に根拠を与える結果ともなった。ゼレンスキー大統領登場の劇薬が、劇薬だけにかえって副作用をもたらしてしまった形だ。
また似た構図として、中国を囲い込むという意味では、中国は舞台上には登場しなかった“影の主役”だったともいえる。そしてサミットで確認されたのは、対中国政策では「デカップル(切り離し)」ではなく「デリスク(リスク低減)」で行くという方針だったのだが…。
「日本国内では、サミットで下された合意に中国が反発し、垂秀夫駐中国大使が呼び出されて抗議されると、垂大使がその場で反論したことに賛意が集まっていますが、米中対立が激化するなか、日本には過度の対立に向かわせない立場が期待されていたところ。むしろ煽り一辺倒の立場に立ってしまったのはどうか、という見方もあります」(同)
遠い昔のことで言えば1972年、それまで対立していた米中関係において、いきなり当時のアメリカ大統領リチャード・ニクソンが何の通告もなく訪中。毛沢東主席と握手したことで、日本は大いに梯子を外されたことが思い起こされる。
例えば中国はサミットが終わると、あからさまな対抗措置として、アメリカの半導体大手のマイクロンテクノロジーからの調達禁止を発表した。マイクロンに関しては、サミット前の5月18日に同社の広島工場に日本政府が2000億円の助成を行うと報じられたばかりだった。アメリカ企業への制裁ではあるが、ブーメランが日本に突き刺さってしまった格好だ。
当然、台湾有事の緊張にも影響は及ぶ。香港メディアが24日伝えたところによると、中国の研究者たちが南シナ海での中国軍と米軍の戦闘シミュレーションを実施し、中国軍の極超音速ミサイルが24発撃ちこまれ、アメリカの最先端空母を撃沈するという結果が出たという。
「台湾を巡っては、昨年8月にアメリカのナンシー・ペロシ下院議長が訪台した際に、中国軍が台湾海峡で大規模軍事演習を行い、最近では台湾の蔡英文総統が4月に訪米してケビン・マッカーシー下院議長と会談した時にも訓練を行っている。その度に両国で有事のシミュレーション合戦が行われ、その結果が伝えられるのが常となっています」(同)
岸田首相は今回のサミットを「歴史的」と成果を強調したが、その後は世界の分断を示す報道が数多くなされて、国際的緊張の導火線に火をつけてしまった印象が否めないのである。
(猫間滋)