3月25日、国営テレビのインタビューで、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の要望を受け、戦術核配備で合意したと発表したロシアのプーチン大統領。
ベラルーシはロシアの同盟国であり、ウクライナとは国境を接して北に位置する国。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから1年以上が経過したが、この間、常にベラルーシの動向が注目されていた。ただ、これまでは、ルカシェンコ氏は積極的な参戦を避け、対ウクライナ戦に対しては、一歩距離を置く立場を取り続けていた。
ところが、プーチン氏の声明を受けたルカシェンコ氏は、ロシアによる戦術核配備を歓迎すると、国民に向けて発表したのだ。
「ルカシェンコ氏は、ウクライナと協力する西側諸国がクーデターを計画しており、ベラルーシに対して『侵攻準備』を進めているとしました。その上で、国の安全を守るためには核兵器が必要だと語ったのです。もっとも、プーチン氏がベラルーシに戦術核兵器の特別保管施設を完成させる計画がある、と発表したのは昨年で、その後、ルカシェンコ氏が国営メディア等で、具体的に発言したことはありませんでした。ところが、今回は西側諸国がすでに特定部隊を編成しているとして、『戦術核だけでなく戦略核兵器の導入も歓迎』と、いつになく強硬な発言をしたことで、国内外で大きな波紋が広がっています」(ロシアウォッチャー)
ルカシェンコ氏によれば、すでにロシアは核弾頭も搭載可能な短距離ミサイル「イスカンデル」をベラルーシに移送したという。ベラルーシの主権と独立を確保するためには「全ての手を尽くして対抗する」との声明を発表してもいる。
実際、「欧州最後の独裁者」と言われるルカシェンコ氏に対しては、国内にも反体制派が潜んでおり、ウクライナに亡命した武装勢力も少なくないという。これらの抵抗勢力が混乱に乗じて独裁政権の転覆を企てる可能性も指摘されていた。ジョージアのテレビ番組に出演したロシアのガルージン外務次官も、ウクライナ軍と共に戦うベラルーシの民族主義武装勢力が、『(ウクライナでの)戦闘経験を生かし、いずれベラルーシの現政権を武力で倒す』と公言していると語っている。
「ベラルーシ国営テレビでルカシェンコ支持派は、『今やベラルーシは核保有国』と言ってのけ、隣国ポーランドやリトアニアに対して核攻撃の可能性まで示唆しました。そんなルカシェンコ体制に反対して『対ロシア戦争』に参加する意思があるベラルーシ人は約1万3000人もいるとされています。今回の件でその多くがルカシェンコ氏に反発を覚えたと言われていて、核の配備となれば、当然、国民の激しい反感も招くことになるでしょう」(前出・ロシアウォッチャー)
こうした国内での「ボタンの掛け違え」が今後ベラルーシにおけるルカシェンコ氏の命運をどう左右するのか、国内はもとより欧米諸国も注視しているのだ。
(灯倫太郎)