Jリーグ第3節を終了して、首位に立っているのは、開幕から唯一3連勝と無敗のヴィッセル神戸。対戦相手に恵まれたとはいえ好調なスタートを切った。
意外と思われるかもしれないが、驚きではない。昨季の開幕前、神戸は優勝候補の一角として名前が挙げられていた。所属するメンバーの実績や選手層の厚さを見れば当然だった。
ところがフタを開けてみれば開幕から11試合勝利なし、という不名誉な記録を作り、シーズンを通して残留争いに巻き込まれてしまった。
神戸と言えば、ボールを完全に支配するポゼッションサッカーで、チームの“バルサ化”を進め、イニエスタ、ビジャ、サンペール、ボージャンとバルセロナ出身の選手を獲得するなど大型補強を進めてきた。しかし昨季は、その“バルサ化”が完全に崩壊。シーズン途中から、吉田孝行監督が就任し、何とか残留に成功した。
吉田監督は、それまでのポゼッションサッカーにこだわらず、前線からプレッシャーをかける現実的なサッカーで勝ち点を拾っていった。そこには「脱バルサ」へのチーム作りが見え隠れした。
現に昨季の11月上旬、神戸は吉田監督に続投要請を出したものの、強化方針などで意見が食い違い、交渉が難航したといわれ、続投が決まったのは12月24日。
その間にどんな話し合いが行われたかはわからないが、吉田監督が目指す「脱バルサ」についてだったのだろう。1月のキャンプで、こんなことを言っている。
「時代は変わっている。世界の主流は、プレスや球際の激しさに変わってきている。いつまでも5年前のサッカーを言っていたら(世界から)置いて行かれる」
その言葉通り、今季の補強には大金をはたいてピークの過ぎたベテラン選手を獲るのではなく、現実的な補強を行っている。その代表的な選手がガンバ大阪から獲得した齊藤未月。運動量の多さはもちろんのことボール奪取能力も高く、前線で攻撃にも絡んでくる。中盤に安定を与えているだけでなく、ハイプレスのスイッチ役にもなっている。
そのほかにも2月に急きょ獲得した、ブラジル代表に招集された経験があるGKフェリピ・メギオラーロや、ケガで出遅れているDFマテウス・トゥーレルが先発で出られれば、守備はさらに安定する。前線もセレッソ大阪から獲得したジュアン・パトリッキや2年目のステファン・ムゴジャがチームにフィットすれば層が厚くなる。まだまだ伸びしろはありそうだ。
問題はイニエスタ。開幕戦はコンディション不良で欠場。その後、夫人の第5子出産の立ち合いのため一時帰国中。
彼のコンディションが整ったら、どういう使い方をするのか。今の神戸は全員がチームのために最後まで力を出し切るサッカー。そこにイニエスタが先発すれば、運動量も少なく守備能力も高くないだけに、周りの選手への負担が増えるだけだ。
現実を考えるならベンチスタートで、どうしても点がほしい時に、イニエスタを投入するしか使い道はないかもしれない。
「脱バルサ化」でイニエスタをどう使うのか。吉田監督の手腕に注目したい。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップアジア予選、アジアカップなど数多くの大会を取材してきた。