登坂淳一が激白「僕がNHKの後輩に伝えたかったこと」/ガタガタ言わせろ!

 フリーアナウンサーの登坂淳一です。今回は、僕なりの「仕事論」を入口に、少し広いテーマでガタガタ言わせてもらおうと思います。

 僕は21年間、NHKに勤務したのですが、ある程度キャリアを重ねてくると、後輩からアドバイスを求められることも多々ありました。その時に感じたのは、彼らがあまりにも「効率のよさ」を欲しているということでした。「どうしたらニュースをうまく伝えられますか?」と聞かれても、一言では答えられません。いい原稿を書くために、構成力、語彙力、文章力などが必要であるように、ニュースを本当にうまく伝えるにはいろいろな要素がトータルに組み合わなければならず、簡単にアドバイスはできないのです。

 逆に言うと、「どうしたらニュースをうまく伝えられますか?」という漠然とした聞き方をしてくる人は、本気でアドバイスを求めているわけではない、とも言えます。そういう後輩に対しては、「今のままで大丈夫だよ」程度の返し方で応じていました。本当に悩んでいるのなら、もっと具体的な質問をするはずですから。

 数年前、「ダウンタウンDX」(日本テレビ系)で、局アナ出身のフリーアナウンサーを集めた回に出演したことがあります。僕がNHKを辞めた理由についてお話をした際、番組が用意したタイトルは「周囲のレベルが低かったから」でした。もちろんバラエティー番組なので、その時は「違いますよ」と笑いながら、説明したんです。確かに、事前の打ち合わせで近いことは言ったのですが、僕の本意は少し違うところにありました。いい機会なので、あの時に僕が伝えたかったことをお話ししたいと思います。

 どんな組織や職種にも言えると思いますが、「年次を重ねること」と「実力が上がること」は必ずしも比例しません。僕自身も自戒を込めて、自分に言い聞かせていました。年次が上というだけで、実力的にも自分が勝っているという勘違いをすると、その時点で成長も止まってしまう。ですから、後輩たちにも、「先輩の仕事を見て過度に萎縮するのではなく、一人のプロフェッショナルになれるよう努力するのが大事だよ」ということをアドバイスしていました。でも、彼らの多くは、そんな言葉を求めているわけではなく、「そうじゃなくて、どうしたら番組がうまくいくかを教えてくださいよ」という反応でしたね(笑)。

 僕が2度目の大阪勤務をしていた2014年頃には、こんなこともありました。関西に台風が近づいている日に、僕が大阪の繁華街・ミナミから中継をしました。中継の直前、激しい雨が降り始め、あっという間に目の前の地面が水たまりになった。「これはすごい」と思い、中継開始と同時にしゃがみ込み、「見てください。1分前まで何もなかった地面にこんな水たまりができています」とレポートをしました。これがリアリティを持って伝わったらしく、けっこう評判がよかったんです。そしたら、後日、(NHKの)別の放送局の若いアナウンサーが、しゃがみ込んだレポートの仕方をそのままパクって使ったなんてことがありました。確かに、うまい人を「真似る」ことは「学ぶ」ことですが、僕の場合は、日頃から、現場の様子をビビッドに伝えるにはどうすればいいのかを考えていた結果としての行動。それを形だけ真似ても‥‥といったエピソードをバラエティー番組のスタッフに話したところ、前述した「周囲のレベルが低かった」うんぬんになった次第です。

 NHK退局時は46歳でしたが、管理職ではなく、1プレーヤーでした。管理職登用試験には受かっていたのですが、まったく登用されませんでしたね(笑)。どうしても管理職になりたかったわけではありませんが、「現場とデスクワークが半々のプレーイングマネジャー的な立場ならなってもいい」と思っていました。組織の中で管理職になることのメリットは、責任を背負えることです。例えば番組内で、自身の発言や表現が波紋を呼んだとしても「あれは、僕なりに考えた結果です」と言い切れる。そういう点は、1プレーヤーとはまた違うやり甲斐を味わえるのではないでしょうか。

 テレビ番組の制作現場というのはチームプレーで成り立っています。アナウンサーとかキャスターという仕事は、サッカーでたとえるとフォワード(FW)的な位置に思われがちですが、そんなことは全然ありません。少なくとも僕は、常にミッドフィルダー(MF)的立場のつもりでやっています。ディレクターや構成者の意図を十分汲み取ることは、MFがディフェンダーからのボールを受けるのに似ている。ボールを受けたら、共演者や視聴者というFWがうまく反応でき、興味を持てるようなパスを出す。これがアナウンサーやキャスターの役割だと思っています。

 18年にフリーとなってからは、組織にいた時とは違った経験をさせてもらっています。現在、放映中のドラマ「スパイめし〜異国グルメ潜入記〜」(チャンネルNECO)では、初めて主演を務めています。「日本各地の外国人街を訪れ、異国料理をスパイする警視庁の公安捜査官」という設定なのですが、「グルメ番組」の要素も多分に入っています。「情報」を伝えてきた人間が、俳優として「感情」を表現することの難しさと面白さを1秒ごとに感じる現場でした。

 自分が俳優の仕事をすることになるなんて、局アナ時代には思いもよりませんでした。そういう仕事にチャレンジできるのは、フリーならではの醍醐味です。だんだん年齢が上がっていく中で、どこまでできるかという不安もありますが、所属事務所のスタッフがチームで助けてくれることもたくさんあるのでありがたい。組織にいようがフリーだろうが、社会の中で仕事をする以上は、誰しもやっぱりチームの一員なのでしょうね。

登坂淳一(とさか・じゅんいち)フリーアナウンサー。1971年6月10日生まれ、東京都出身。1997年、NHKに入局し、「おはよう日本」や正午ニュースなどを担当。2018年に退職。現在は、自身のYouTubeチャンネルにおいて動画投稿なども行う。

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