登坂淳一がガタガタ言わせろ!「知らない新語・流行語は無理して使わない」

 はじめまして、登坂淳一です。今日は、年末に発表された「新語・流行語大賞」について、〝ガタガタ言わせて〟いただきたいと思います。

 NHKのアナウンサー時代は、毎年12月になると「新語・流行語大賞」のニュースを伝えていました。フリーになってからも、すごくチェックしているわけではありませんが、それなりに気にはなりますね。

 今年大賞となった「村神様」(ヤクルトスワローズの村上宗隆の活躍で広く使われるようになった言葉)や、選考委員特別賞に選ばれた「青春って、すごく密なので」(今夏の甲子園で東北勢初優勝を成し遂げた仙台育英高校の須江航監督がインタビューの中で発した言葉)は2022年を象徴していると思います。コロナ禍も3年目となり、人々が明るいニュースを求め始めた。そんな時に共感を呼んだのが、村上選手の活躍であり、高校球児の躍動だったのではないでしょうか。

 日本選手が王貞治さんの記録(年間55本塁打)を超すなんてできるのだろうかと誰もが思っていました。村上選手がそれをやってのけ、皆が「すごい」と感じた。また、今年の高校3年生はコロナ禍が始まった直後に入学し、いろんな大変さの中で高校生活を過ごしてきた。須江監督の言葉には、その大変さが全て凝縮されており、皆の共感を呼んだのでしょう。

 この2つ以外にも、野球関係の言葉が多くノミネートされました。他のスポーツも裾野が広がってきたと言われていますが、野球の人気、コンテンツとしての魅力は、まだまだ根強いのでしょう。僕のように中学・高校時代陸上競技部だった人間でさえ、野球への関心は人並みにあるわけですから。

 トップテンに入賞はしませんでしたが、「令和の怪物」(千葉ロッテマリーンズの投手・佐々木朗希のニックネーム)も感慨深いですね。

 僕は子供の頃、「昭和の怪物」と言われた江川卓さんのファンでした。ジャイアンツ戦を観に行って江川さんが先発だと、午後8時過ぎには試合が終わってしまうのです。打たれない上に投球テンポがいいので試合時間が短くなる。本当にすごい投手でした。今の投手は、ノーワインドアップやセットポジションで投げる人が多いですが、江川さんは球威を重視して大きく振りかぶり、軸足の踵を上げるヒールアップで投げていました。そのフォームも格好よかったですね。

 ちなみに、NHKに入局して野球実況を担当させられた時は若干苦痛でした(笑)。そんなにスポーツアナ志向ではなかったので「えっ」と思いましたね。もちろん仕事ですから、勉強して取り組みました。

 野球以外の言葉だと、トップテンに入賞した「知らんけど」(文末に付けて断定を避け、責任を回避する言い方。関西の人が使っていたが、若い世代が面白さを感じて話題となった)は、和歌山放送局や大阪放送局勤務時代、普通に使っていましたし、「ヤクルト1000」(ヤクルトが販売する乳酸菌シロタ株入りの飲料)も、話題になる前から飲んでいました。

 余談ですが、ヤクルトには「ミルミルS」という乳飲料があります。これはヤクルトレディからしか買えない商品なのですが、整腸作用があり、お腹に効くので愛飲しています。別にヤクルトからおカネをもらっているわけではないので、誤解なきようお願いします(笑)。

 同じくトップテンに入賞した「スマホショルダー」(肩からスマートフォンを斜め掛けできるアイテム。キャッシュレス決済の普及で財布を持ち歩く必要がなくなったことなどから流行)も、男女問わず愛用者が多いですね。私自身も、相当前からキャッシュレス派です。万が一の時に備えて数千円くらい用意しておくことはありますが、現金はほとんど持ち歩きません。

 ノミネートされた言葉の中で、あまり共感できなかったのは「顔パンツ」(マスクを外すことが、もはや下着を脱ぐのと同じように恥ずかしく感じるという心理状態を比喩的に表現した言葉)です。アナウンサーは、コロナ禍以前から乾燥対策などで冬場にマスクをすることが多いのですが、私は「不便だな。早く外したいな」と思うばかりで、「外すのが恥ずかしい」と感じたことはないですね。

 今年の「新語・流行語大賞」は、全体的に不作だったと言われているようです。僕と同世代の50歳以上の人の中には、今年だけでなく毎年「この言葉知らないな。本当に流行しているの?」と思う人も多いと思います。僕自身も例外ではありません。しかし、賞の名称に「新語・流行語」と冠されているように、「新しい言葉」という意味合いもあるわけですから、知らない言葉があっても当然です。また、「新語」ゆえに、NHK的な観点からすると〝崩れた〟言葉もある。経歴のせいか、「そういう崩れた言葉にイラっとしませんか?」とよく聞かれるのですが、僕はあまり思わないですね。

 言葉というのは、時代や世代によって絶えず変化するものなので、そこにイラっとすることはありません。ただ、何を言っているのかわからないことは当然ながらあります。例えば、若い人たちと会話をすると、彼らは「ワンチャン」(One Chanceの略。まだ可能性があるという意味)とか、「あなたのターン(番または順番)」などの言い方を普通に使います。当然、僕がわからない言葉も出てきますが、それが世代間ギャップのバロメータになると思っています。そういう時は、家に帰ってからこっそり調べます(笑)。でも、そうやって覚えた言葉を無理して使おうという気持ちは徐々になくなってきました。僕もやっぱり歳を取ってきたのでしょうね。

登坂淳一(とさか・じゅんいち)フリーアナウンサー。1971年生まれ。1997年、NHKに入局し、「おはよう日本」や定時のNHKニュースなどを担当。2018年に退職。現在は、自身のYouTubeチャンネルで動画投稿なども行う。

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