ワグネル「一家4人殺し」囚人兵が帰還「彼らがいたからあなたの家族は戦争に行かずにすんだ」

 1月20日、米政府から「国際犯罪組織」に認定されたロシアの民間軍事会社・ワグネル。翌日には、同社トップのエフゲニー・プリゴジン氏がホワイトハウス高官に対し、「わが社が一体どんな罪を犯したのか、きちんと明示せよ」と猛反発したことは記憶に新しいが、そんなプリゴジン氏の動向が、さらなる慌ただしさを見せている。

「プリゴジン氏は24日、自社のWEBサイトで、ここ数カ月にわたる元受刑者志願兵への否定的な報道に対し、『ロシアのために命を捧げている人々を犯罪者扱いし、中傷するなどあってはならないこと』として、ロシア下院に『ワグネル志願兵』の保護を求める声明を出しました。さらに同氏は議長に対し、受刑者たちが過去に犯した犯罪に関する情報をメディアが流すことを禁止すべき、と早急な法改正を呼び掛けたんです」(ロシアウォッチャー)

 とはいえ、プリゴジン氏自身はSNSやメディアを積極的に利用している。これまでも、服役中の囚人をスカウトするシーンをSNSにアップしたり、最近ではメディアをよんで、恩赦(6カ月間、兵士として戦地に赴く代わりに帰還後はその後の懲役刑が免除される)を与えるシーンも公開し、「殺人者である彼らが戦争に行ってくれたから、あなたの息子、あなたの父、そしてあなたが戦争に行かずに済んでいる。殺人者を戦争に行かせて恩赦を与えるか、それともあなたの家族を行かせるか」などと声高に口にしていた。
 
「プリゴジン氏としては、メディアを利用することで、議会に正当性をアピールしながら、受刑者に対しても、最前線で6カ月戦えば自由になれるぞ、というメッセージを送れる。実際、1月6日には、生き残って帰還した20人の囚人兵に恩赦が与えられ、自由の身となったシーンが大きく報じられました。その中には、一家4人を殺害し、契約殺人の罪で懲役23年だった『黒い不動産屋』と呼ばれる男も含まれていました。男はプリゴジン氏から『戦争の英雄』とたたえられ、17日にはトルコに渡り、逮捕前に再婚した妻と旅行を楽しんでいると伝えられています」(前出・ロシアウォッチャー)

 だが、一方で戦死してしまう囚人もいる。ロシア語・英語のニュースサイト「メデューサ」も、囚人擁護団体「ロシア・ビハインド・バーズ」代表のこんな談話を明らかにしている。

「ワグネルが動員した囚人はこれまでに5万人を超えるが、前線で残るのは1万人。あとはすべて殺害されたか、脱走したか、投降したかだ」

 米NBCは25日、ロシア南西部バキンスカヤにある、戦死した囚人をワグネルが埋葬する共同墓地が、わずか2カ月間で7倍以上も増えたと報道した。さらに、プリゴジン氏は、行方不明や脱走した元受刑者について記録をいっさい取っておらず、行方不明者すべてを死者と見なしている、とも報じた。

「メデューサが取材した遺族によれば、ある日ワグネルから電話があり、夫が戦死したと告げられ、棺とメダル、表彰状、死亡証明書が届けられたといいます。ところが数日後、夫は別の場所で生存していることが確認されたというんです。現状はそんないい加減な管理の下で、囚人が戦地に送られているんです」(前出・ロシアウォッチャー)

 殺人者がその罪を償うことなく自由の身になる一方で、犠牲になる囚人が4万人を超えている…。こんな戦争を、いったいいつまで続けるつもりなのか。

(灯倫太郎)

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