池上彰がズバリ解説「米中大異変で日本はどうなる?」(3)〝賢いトランプ〟出現で共和党の分裂も

─次は米国との関係性についてですが。

 はい。昨年秋、現地で中間選挙を取材しました。日本と違いアメリカでは、共和党・民主党ともに候補者を決める予備選挙が行われます。この予備選挙ではトランプ前大統領(76)が推薦した候補が勝ったのですが、民主党候補との争いでは多くが敗れたんです。これによって共和党幹部は、トランプが共和党内では人気があっても、選挙ではまったく力がないことを知ったのです。

─得意のツイッターを使うことができなかったのが痛かった?

 それもありますが、支持者たちが連邦議会を襲撃し、死者5人を出す過激な事件が起きているのです。これにより一般の有権者はトランプに愛想を尽かしてしまったということです。

 それに代わり、フロリダ州あたりに行くとデサンティス州知事(44)が人気を集めています。イェール大学からハーバードのロースクールに進学、その後、海軍入りしたエリートで、差別的な発言はしないが考え方はトランプそっくり。アメリカでは〝賢いトランプ〟と呼ばれています。

─では、2年後の大統領選では共和党はトランプではなくデサンティスが候補になる?

 共和党はトランプでは勝てないでしょう。だけど、デサンティスにすると、おそらくトランプは「俺を選ばないんだったら、俺は共和党から飛び出して共和党をぶっ潰す」と無所属で立候補する可能性があるんです。そうなると、保守票が割れて、民主党に負けてしまうおそれが出てきます。

 かつて、クリントンが大統領選挙に出た時にロス・ペローという大金持ちが無所属で立候補しました。すると、保守票がロス・ペローに流れ、現職のジョージ・ブッシュ大統領(パパブッシュ)が負けてしまった。その二の舞いになるおそれが共和党の最大ジレンマなのです。

─そこまでしてトランプが大統領選に出てくるのはなぜでしょう?

 もともと、16年の大統領選では出馬することで名前を売り、不動産ビジネスにつなげようと考えていました。ところが、出馬するとあれよあれよと言う間に当選してしまいました。ところが大統領として再選されないと、失敗した大統領という烙印を押されることになります。負けず嫌いのトランプとしてはこれを絶対に認めたくないわけです。それでいまだに20年の前回の大統領選挙では自分の票が盗まれた、自分の勝ちだった、と言い張っているわけです。

─では、バイデン大統領(80)は次も安泰ですか。

 いえいえ、今回、機密文書の持ち出しが見つかってしまいました。訪米中の岸田文雄総理(65)との共同記者会見も行えませんでした。もともと次の大統領選に出馬すれば、82歳という高齢になることが心配されていました。つまり、万事休す。来年、24年の段階で後進に道を譲ることになるでしょう。

─なるほど。次の大統領選はバイデンvsトランプではなくなるんですね。

池上彰(いけがみ・あきら)1950年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、1973年にNHK入局。報道局社会部でさまざまな事件を担当。94年より11年間、「週刊こどもニュース」のお父さん役として活躍。2005年にNHKを退社、フリージャーナリストとして多方面で活躍。現在は名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授など11の大学で教える。「伝える力」シリーズ(PHP新書)、「おとなの教養」(NHK出版新書)、「私たちはどう働くべきか」(徳間書店)など著書多数。近著に「そこが知りたい!ロシア・ウクライナ危機 プーチンは世界と日露関係をどう変えたのか」(徳間書店)

*週刊アサヒ芸能2月2日号掲載

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