岸田×菅×麻生「安倍レガシー」争奪戦(2)名指しで「岸田批判」を展開

 実際、「岸田降ろし」の口火を切った議員もいる。前総理の菅義偉氏(74)だ。1月10日発売の月刊誌「文藝春秋」2月号に寄せた「派閥政治と決別せよ」と題された提言で、岸田総理を名指しで批判したのだ。

 派閥政治に違和感を覚えて以来、無所属を貫く菅氏にしてみると、いまだ岸田派トップに君臨する岸田総理が許せないようだ。〈小泉純一郎元総理も安倍元総理も、総理大臣の時は派閥を抜けました〉と記し、岸田総理が派閥の論理で人事を進めていると指摘。派閥は〈そもそも中選挙区に対応して生まれた〉もので、小選挙区の現在は無用の長物であり、岸田総理が派閥に居続けることで〈国民の見る目は厳しくなる〉と主張している。

 この提言のインパクトは大きかった。政治ジャーナリストの安積明子氏がこう解説する。

「雑誌が発売されたのは通常国会を控えて、議員が地元に帰っていて、永田町に静けさが漂っていた時期でした。それゆえ、菅さんの発言はよけいに目立った。しかも、岸田総理に軌道修正を迫る内容で、安倍さんの死後半年を経過して『とうとう動き始めた』と受け止められました」

 さらに、菅氏は1月18日に出演したラジオ日本の番組で追撃を加えた。防衛費増額の財源について、「突然だった。行革でいくら(捻出する)とか、いろいろ示した上で、できない部分は増税させてください」と議論がないことを嘆いてみせたのだ。

 安倍政権で官房長官として安倍元総理を支えた菅氏である。国葬で弔辞を読んだことでもわかるように、最側近でもあった。まさか防衛費増額の悲願を達成するのは自分だったのに‥‥とでも思っているのだろうか。少なくとも岸田総理の政治スタイルは許せないのは間違いない。政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏が言う。

「菅さんは官房長官時代から内閣人事局を通じて政策実現のためには、邪魔になる官僚を飛ばしてまで官邸主導で政治を行ってきました。一方、岸田総理の増税路線は財務省の策略に乗せられていることは明らかで、筋金入りの政治主導の菅さんとしては、『もう黙っていられない』ということでしょう」

 もう1人、「安倍レガシー」を相続する有資格者と言えるのが、総理経験者でもある自民党の麻生太郎副総裁(82)だろう。安倍内閣で重要閣僚を歴任してきたが、露骨に岸田総理による安倍元総理の悲願達成を妬むわけにもいかない。安倍元総理亡きあと、岸田総理の最大の後見人であるからだ。それゆえ、おかしな「岸田評」が飛び出している。

 1月15日に地元の福岡で行った講演の中で、「岸田という『あまり頼りがいがない』と言われた人のもとで、間違いなく日本は世界の中で地位を高めつつある」とぶっちゃけたのだ。皮肉ともベタ褒めとも受け取れる不可思議な発言だ。麻生氏の腹の中を、鈴木氏はこう分析する。

「麻生さんの頭の中は麻生派と岸田派という旧宏池会を糾合する『大宏池会構想』の実現でいっぱい。ところが、岸田総理は麻生派の下に入ることを望まずに乗り気ではない。それは、麻生さんにとっては面白くないわけで、コトによっては、政権から距離を置くこともありえます」

 先の発言は愛憎渦巻く岸田総理への本音ということか。舌禍の多い麻生氏である。今回も口が滑ったのだろうか。

ライフ