ついに、行きつくところまで行ってしまった——。
ロシアのプーチン大統領が6日までに、殺人や強盗など連邦法上の重罪で保護観察中の犯罪者や、刑務所から出所したばかりの元犯罪者を兵士として招集する法改正に署名した、とCNNほか複数のメディアが伝えた。
報道によれば、9月21日に始まった部分的動員も、戦況悪化に歯止めがかからないロシア軍の状況に対し、政権与党「統一ロシア」の下院議員らが法改正を提案。それが上下両院を通過し、11月4日にプーチン氏が改正案に署名したというのだ。
今回、対象となるのは殺人や強盗、麻薬取引などで有罪判決を受け、これまで徴兵が見送られていた数万人の犯罪者。彼らは通常、犯罪歴抹消までの、およそ10年間を当局の監視下に置かれ、外出も禁止。日常生活にも厳しい制限が課せられているが、
「今回は未成年者へ性犯罪を犯した者、また国家反逆罪やテロなどの罪を犯した元受刑者、さらに政府当局者の暗殺未遂、過激派運動などで有罪になった受刑者以外は、すべてが対象だとされています。とはいえ、動員という名のもと殺人罪を含め凶悪犯が野に放たれるわけですからね、ロシアが勝っても負けても、とんでもない状態になることは間違いないでしょうね」(全国紙記者)
4日、独立系メディア「インサイダー」の報道によれば、プーチンの懐刀とされる民間軍事会社「ワグネル」が、各地の刑務所から募集した戦闘員のうち、すでに500人以上が死亡。それが、今回の「重罪受刑者」動員法の署名を早めたのでは、という見方もあるようだが、
「さらにAFP通信も、東部ドンバス地方に連れてこられた受刑者の大半が、最前線で前進を強制され、発砲するウクライナ軍の“位置のあぶり”出しに使われていたと伝えています。つまり、うがった見方をすれば最初から彼らは戦力としてではなく、『弾除け』を目的に戦地へ派遣したという見方もできるわけです。ワグネルはロシアの法制上、公式には認められていない会社なので、今回の受刑者動員はワグネルがやっていたことを、ついに合法化したということ。プーチンが、そこまで追い詰められている証拠です」(同)
ウクライナとの最前線では兵士不足に加え、十分な装備品もなく補給線がズタズタで、満足な戦時糧食も送ることが出来ていない。しかも、ほぼ訓練も受けずに戦地に送り込まれているため、士気低下どころの話ではないという。
「そんな中に、犯罪者を放り込んだらどうなるのか、ということ。プーチンとしては、国費で食事を提供し対価を払い、更生の面倒まで見なければならない“厄介者”を戦地へ送り出せれば、一石二鳥という考えもあったのかもしれません。そんな状況の中、軍の規律やルールなど守られるべくもないでしょう。無駄死にしたくない彼らが反乱を起こし、味方同士の戦闘が起こることさえ考えられます」(同)
「重罪受刑者」動員で、戦地での混迷はさらに深まりそうだ。
(灯倫太郎)