共産党大会は習近平総書記の3期目就任を決定し、独裁体制を完成させたが、世界の中国ウオッチャーを驚かせたのは、習主席が4期目の就任をも前提にした人事をおこなったことだ。
本来なら次の総書記と首相候補をチャイナ・セブン(政治局常務委員)に任命して帝王学を学ばせるところだが、中国の政治を決定する最高メンバーは習氏のイエスマンばかりで、次の指導者にふさわしい人材が選ばれていない。
これにより、なぜ習近平が“終身総書記・国家主席”を目指したかが見えてくる。
10年前、習氏が総書記に初めて就いたとき、就任演説で「中国の夢」について数十回言及し、「中華の栄光」を取り戻すと繰り返した。その熱き言葉に、中国全土が興奮と熱狂に包み込まれた。
北京からユーラシア、アフリカに至る「一帯一路」を掲げ、「AIIB(アジアアフリカ開発銀行)」の設立を謳うと、世界からも歓迎された。北欧やEUはおろか、38度線で分断された韓国ですら、バスに乗り遅れるなとこれに加盟した。
だが、今回の就任演説は2時間を超した前回の半分しかなく、何より国民の反応が冷ややかだった。
その理由ははっきりしている。習政権の2期10年で格差が拡大する中で、毛沢東時代さながらの「習思想」学習が、共産党員ばかりか教科書を通して国民教育になり始め、国民から、かつての暗い時代と重ねて見られているからだ。
中国の新体制が発足した翌24日の香港株式市場はハンセン指数(日経平均のようなもの)が急落、前週末比6%安をつけ、上海総合指数は2%安で終わった。背景には、異例の3期目に入った習近平総書記の強権体制を警戒し、中国から海外資本が逃避していることがある。そして、見逃せないのが中国富裕層のマネーの動きだ。
もともと香港、上海、深センの株式市場は、習氏の2期目から下落傾向にあった。最大の理由は習近平最大のテーマである「共同富裕」を打ち出したからだ。反市場的な政策を意味する「共同富裕」を恐れ、困惑したのが中国の富裕層であり、知識層だったのだ。
米誌フォーブスの「ビリオネア・リスト」(22年9月下旬公表)によると、富豪ランキングの地域別最多はアジア951人、北米777人、欧州536人。中国は単独で440人もいて、国別ではアメリカに次ぐ2位である。3番目がインドで161人。日本はどうかと言うと、台湾の45人、韓国の28人も下回る27人だ。
世界に2400人いるといわれるビリオネア(資産10億ドル=1400億円)には入らずとも、近年の高度成長で“億り人”になった者は数えきれないほどいるのが現在の中国だ。彼らはいま、共同富裕の名の下に財産が「没収される日が来る」とおそれている。また知識層も、自由が狭まる中国に未来がないと、国を飛び出す機会をねらっている。
(団勇人・ジャーナリスト)