絶対的権力は腐敗する――。
中国共産党の第20回党大会は予測通り習近平氏(69)が3度目の総書記(国家主席)に就いた。そして予想外にも、党最高指導メンバーの政治局常務委員7人のうち4人の退任が決まった。李克強首相(67)のほか序列3位の栗戦書・全国人民代表大会常務委員長(72)、同4位の汪洋・人民政治協商会議主席(67)、同7位の韓正・筆頭副首相(68)が中枢から外れた。
習近平主席は3期目で全権力を掌握、14億人民の国家が完璧に“習氏のもの”になった。ここで注視すべきは、習主席の独裁が今後の世界に「どんな事態をもたらすか」である。
新たな習政権時代の始まりを暗示するかのような事件が、第20回党大会の始まる直前に起こった。共産党大会を控えて厳重に警戒していた10月13日、北京で習主席を痛烈に批判する横断幕が陸橋に掲げられたのだ。そこには「独裁」「国賊」という、信じ難いほどにリスクを背負った言葉が並び、習近平の追放を呼び掛けていた。
これは、中国民衆史に残る大事件だ。というのも、白昼堂々と、ましてや共産党大会目前にこれが起こったからだ。中国で最高権力者をからかったり、習主席のポスターに墨汁をかけただけで、即刻逮捕される。運よく釈放されても、それは厳しい追及で精神に異常をきたしてからのことだ。
しかも累は一族にまで及ぶから、彼の地では死刑を覚悟する以上の決意がなければ指導者の批判など出来ない。それでも、習氏を「国賊」と痛罵する人物が現れたのだから驚きなのだ。
この背景には、中国全土に一党独裁への「不平不満」が充満しており、何千万人、何億人の怒りのマグマが爆発に向かって膨らんでいることを示していると言えよう。
ところが日本人はとことん無関心だ。中国が日本の領海、領空をこれ見よがしに侵犯し続けても静観黙過。日中国交50周年を迎え、9月末には「記念行事」が開催され、中国進出企業や中国ビジネスに関係の深い財界人が集って、「向こう50年の友好」を謳ったことは記憶に新しい。
なんと不可解であろうか。これは単に、中国で起きている人権蹂躙、民主体制への攻撃、一帯一路沿いの国々への借金漬け外交にNOと言っているだけではない。日本人は世界で最も中国との関係が早く始まった国であるにもかかわらず、中国人でさえ呆れるほど「友好」のマインドコントロールに罹っているからだ。
日本人は生真面目だから日中国交が回復すると、本気で「友好一本槍」でやってきた。4000年の歴史をみると、中国は合従連衡が当たり前。常に利用できる相手を探して、権益を拡大してきた。そのためには机の上で「握手」しながら、机の下では「蹴り合う」のが歴史的にも明らかだ。
習近平3期目の指導部は習主席の権力に忖度するイエスマンばかりで占められた。口やかましい長老や、注進する者は1人もいない。すなわち、ロシアのプーチン大統領、いやそれ以上に世界の常識や国際的な約束事が破られる可能性があるということだ。
日本の対中関係は大警戒すべき時代に突入した。それを十分に自覚すべきだ。
(団勇人・ジャーナリスト)