習近平「続投」に異変!“影の男”李克強が表舞台に現れた

 中国政府の李克強(リー・クォーチャン)と聞いて、どんな人物かピンとくる人は少ないだろう。
 
 習近平氏と並んで「ポスト胡錦涛」の地位を争ったが破れ、2013年の習近平政権の発足にあたってはナンバー2の首相に就いたが、直ぐに“蚊帳の外”に追いやられた不遇の政治家である。
 
 それが、中国4000年の王朝興亡史で欠かせない「下剋上」を連想させるかのように、いま不死鳥の如く這いあがってきた。
 
 ほんの1、2年前までは、習近平主席は絶頂を極めていた。毛沢東による生涯領袖の弊害を反省した中国共産党は、鄧小平時代に国家主席は2期(10年)、最高指導者である常務委員定年を「七上八下」(68歳以上は再任しない)と定めたが、習氏はこれを覆し、69歳にして国家主席3期目をほぼ掌中に収めたといわれる。
 
 この間、李克強首相の存在が際立ったことがある。2010年代以降、世界の中国ウォッチャーが中国経済に不審の目を向け、「経済データは信用できない」と騒ぎ始めた。そんな状況下、英エコノミスト誌は李克強氏が国務院の会合で述べた「中国経済は①電力消費量、②銀行の融資残高、③鉄道貨物の輸送量が実態を示している」という発言に注目し、これをリコノミクス指数として、中国経済を説明する根拠とした。
 
 だが、経済データの信憑性が疑われようが、中国経済は「世界の工場」と言われた江沢民、胡錦涛時代より勢いは衰えながらも成長が続き、経済担当の李克強首相の出番は少なかった。
 
 GDP世界第2位となった中国は、やがて習近平氏に“我こそは第二の毛沢東である”と錯覚させるが、3期目の国家主席を目指す元となった「一帯一路」「覇権主義」にみられる経済が、ここにきてコロナ禍で揺らぎ始めた。
 
 米国による対中国関税、ウクライナ侵攻に対する親ロシア国家への制裁、また、ゼロコロナ政策による長期のロックダウンで、中国経済はかつての高度成長がウソのように減速している。頼みの個人消費と工業生産も落ち込み、今後しばらくは景気低迷から抜け出せそうにない。
 
 この経済不振の状況を李克強首相は危ぶみ、西側から距離を置く習近平主席に政策変更を促したり、ゼロコロナ政策などの中国経済の減速を招いている措置を縮小するよう進言しているのだ。
 
 また、習近平氏がプーチン大統領と親密な関係を築いていることで、中国が国際社会から孤立する事態に陥ったことを、共産党の高官の多くが憂いているともいわれる。
 
 これらのことは、中国王朝史でみると“下剋上が生まれる素地”であると見ていい。
 
 中国の政治は不透明であるために、李克強氏が最高指導部内でどれほどの支持があるのかは伺い知れない。しかし少なくとも、党長老による「3選は認められない」との談話が欧米マスコミに流れることからわかるように、習近平政権の権力基盤に隙間風が吹き、李克強氏が注目されていることは間違いない。
 
 李克強氏は、市場開放を志向する一方、思想より実利を重視する慎重な政治家と言われている。大学在学中に経済改革を旗印に掲げる共青団に加わり、発展の遅れた遼寧省の幹部に就き、国営企業の規模を縮小して効率化するとともに、出稼ぎ労働者の地位向上に熱意を持っているというのが一致した評価だ。

 習近平主席が国際社会から一段と孤立する政策を続けると、下剋上が起こらないとは限らない。秋に予定される第20回共産党大会に注目だ。

(団勇人・ジャーナリスト)

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