吉高由里子が大河ヒロイン「紫式部」時代の性と暴力(4)光源氏が愛した7人のオンナ

 高木氏は言う。

「『源氏物語』が書かれたのは、西暦1000年をちょっと過ぎた平安中期の時代ですが、当時のリアルな宮廷の社会を反映しているかと言えば、そういう部分もありながら、巻頭に『いずれの御時にか〜』とあるように、紫式部からみれば、より古い時代を舞台にした時代小説です。藤原道長の時代には、もう行われなくなった宮中儀礼なども描かれていて数十年前の史実を思わせます。また、男性貴族たちには漢文の教養を身につけることが大事だという価値観がバリバリに生きていたのは9世紀で、紫式部が生きた時代よりは100年以上遡った平安初期の価値観も見え隠れしています」

「源氏物語」のストーリーは、桐壺(きりつぼ)という帝が寵愛した美貌の妃・桐壺更衣(きりつぼのこうい)が死んで、2人の間に生まれた主人公・光源氏が、父の桐壺帝が亡き母に瓜二つの藤壺(ふじつぼ)という女性を後妻に迎えたことが発端となる。マザコンの光源氏は、成長して父親の妃で義母の藤壺と密通、子供まで孕ませてしまう。光源氏は亡き母親の面影を求めて、次々に女たちとの逢瀬を重ねていくというのが物語の核である。

 高木氏に、光源氏が関係を持った主な女性たちについて、解説してもらった。

【藤壺】桐壺帝は桐壺更衣を深く寵愛していましたが、光源氏を産んでまもなく亡くなり、彼女に似ていた藤壺を後宮(こうきゅう)に迎えます。光源氏とは年齢も近いお姉さんのような存在で、やがて成長した光源氏と密通してしまいます。男女の関係になったのは1度だけでしたが、その1回の交わりで子供ができてしまいます。不義の子とは知らない桐壺帝のはからいで東宮となり、後の冷泉帝(れいぜいてい)となる。桐壺帝が亡くなったあとは、女としての個人的な思いを封じて、息子を帝にするために、出家して源氏とは政治家として連繫していくことになります。

【葵上(あおいのうえ)】光源氏が元服する時に親が決めて政略結婚をさせられ正妻となった女性です。年齢的には4歳くらい年上の姉さん女房で、お互いに愛が高まらない関係でした。光源氏が葵上のお父さんに慮って妻のところに通って侍女たちと戯言を言ったりしていても、葵上は奥からそれを見ているような、ちょっとツンとすました女性として描かれています。この葵上との関係がうまくいっていたら、光源氏の恋愛遍歴は生まれませんから、「源氏物語」の中で重要な役どころと言えますね。

 藤壺への憧れはあっても1度だけの関係でもう2度とはない、絶対に近づくことが許されない人だし、正妻の葵上はツンとしていて楽しくないというわけで、源氏は次々に女性を求めていくことに。葵上には、六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)の生霊が乗り移って苦しめられますが、その物の怪がいなくなったあと源氏との関係もちょっと融和の時があって、光源氏の子供の男児(夕霧・ゆうぎり)を産んだあとに亡くなってしまいます。

【六条御息所】もともとは桐壺帝の弟の皇太子の奥さんですが、夫に先立たれて未亡人になっていました。物語の表面的には葵祭の見物場所を巡って、源氏の正妻の葵上を恨み、生霊となって葵上を苦しめ葵上を取り殺したというふうに描かれています。結局、天皇にならないうちに死んでしまった皇太子の妻なので、家の野心を実現できなかった女性です。単純に個人的な嫉妬だけではなく、葵上の家の左大臣家と六条御息所の実家の遺志が戦っているふうにも理解できます。

【紫上(むらさきのうえ・若紫)】源氏からみると義母の藤壺の姪で、北山で垣間見をして藤壺に似ている娘だったので心惹かれていきます。まだ幼い少女だった若紫はお祖母さんのところで育てられていたのですが、間もなくその祖母が亡くなります。亡くなる前に、この子が大人になって気持ちが変わらなければよろしく頼みますということを言い残して。源氏は紫上を引き取って藤壺譲りの美貌と教養を持つ女性に育て正妻格にします。このことを略奪とか幼女誘拐に近いという言い方をする人がいますが、一応、お祖母さんの許可を得ているので、強引な略奪とかではないと私は思っています。源氏のところに引き取られてきた時はまだ幼い少女ですから、一緒に添い寝をしたり兄妹のように過ごしていましたが、正妻の葵上が亡くなって喪が明けて、一緒に暮らしている二条院に戻ってきた時に、初めて男女の関係を結びます。

【明石君(あかしのきみ)】紫上を大切にしていたはずの光源氏ですが、右大臣家の娘で朱雀帝(すざくてい)の寵愛を受けていた朧月夜(おぼろづきよ)との密会スキャンダルが発覚して、須磨に退去します。そこで源氏に気品ある人柄を認められて子供(明石姫君・あかしのひめぎみ)を産んだのが明石の君です。この時、都にいる正妻の紫上は源氏に対してムッとしていますが、明石の君はいわば地方の役人の娘で、紫上からみれば、本気で怒ったり嫉妬するような相手ではない。そこで紫上は、明石の君の産んだ娘を自分の子供として引き取って育てることになります。ここで紫上が子供を産まない設定にしたのは、「源氏物語」の構成として、とても見事なところです。子供を産まない男女関係は、政治的には何の意味も持たない時代に、そういう男女がどこまで純粋に愛し合えるのか、というテーマをも孕んでいます。

【夕顔(ゆうがお)】この夕顔と空蟬(うつせみ)のエピソードは「帚木(ははきぎ)三帖」といわれる中に登場します。夕顔は葵上の兄の頭中将(とうのちゅうじょう)の元愛人だった人ですが、夕顔の花の縁で源氏に見初められ、お互いに身分は明かさずに結ばれます。頭中将と光源氏は、源氏物語の中で「雨夜の品定め」として有名な、4人の若い男たちがどんな女がいい女かなどと語り合うシーンにも登場する義理の兄弟であり、また恋のライバルみたいな関係です。夕顔は源氏とデートしている時に物の怪にとりつかれてあっけなく死んでしまいますが、その十数年後に九州に下っていた夕顔の娘の玉鬘(たまかずら)が都に上ってきた時に(実の父親は頭中将ですが)光源氏は夕顔を懐かしんで引き取り、自分の実の娘だと世間に見せかけて持てはやします。

【空蟬】伊予介(いよのすけ)という年配の男に後妻に入った人妻です。ある日、陰陽道の占いで方角を変えたところに一泊するのがいい(方違・かたたがえ)ということで訪ねて行った家で源氏はその人妻と一夜だけ過ごします。ところが再び源氏には逢おうとはせず、暗闇の中、部屋に忍びこむと、彼女は薄い上着を脱ぎ捨てて逃げていました。源氏は、一緒に寝ていた伊予介の娘の軒端荻(のきばのおぎ)を空蟬と間違えて関係してしまいますが、間違えたとも言えず、源氏はその場に残された空蟬の薄い上着を大事に抱えて空しく帰るというエピソードです。これらのエピソードは源氏物語の中心的な話ではありませんが、物語の初めのほうに登場する源氏の恋物語では有名な話になっています。

「源氏物語」に登場するオンナたちは、まさに百花繚乱。2024年に先立ち、今こそ、数多の美女が光源氏との性行為に明け暮れる〝色好み〟全開のラブストーリーを堪能してみたい。

 必ずや、貴兄好みのキャラクターが見つかるはずである。

高木和子(たかぎ・かずこ)
64年、兵庫県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。著書に「男読み 源氏物語」(朝日新書)、「源氏物語再考」(岩波書店)、「源氏物語を読む」(岩波新書)など。

*「週刊アサヒ芸能」7月7日号より

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