中国の習近平国家主席が2013年から提唱する、アジア〜ヨーロッパ〜アフリカ大陸にまたがる、夢の巨大経済圏構想「一帯一路」。
ところが、そんな習主席肝いりの国家戦略に、大きなが翳りが見え始めているというのだ。中国事情に詳しいジャーナリストが語る。
「2021年春の時点で、中国と『一帯一路』における協力文書に調印している国は、140ヵ国。別に32の国際組織が参加を表明しています。『一帯一路』が実現すれば、アジア各国の経済格差を是正するというメリットがあり、また、途上国のインフラ整備や原油などのパイプライン、鉄道網を通すことで、輸送コストと時間が大幅に短縮されます。新型コロナウイルスが感染拡大した際には、『一帯一路』参加国に対して中国製ワクチンを供給するなどの“コロナ外交〟を積極的に行ってきました。ところが残念なことに、副反応が酷かったり、感染が収まらなかったりと評判は散々で、供給を断わってくる国も出る始末。そんな中で始まったのがロシアによるウクライナ侵攻なんですが、中国はロシア支援の検討を表明。すると、『一帯一路』参加国の中で反中感情が広がり、“脱中国”の流れが進み始めたというわけです」
中国は「一帯一路」のために発展途上国や貧困国のインフラ整備に莫大な投資をしているが、投資を受ける側は中国に借金をしているのと同じ。この巨額の借金に、悲鳴を上げる国も少なくないという。
「スリランカがいい例です。今年4月に対外債務の支払い停止を発表するまでに財政難に陥っているのですが、大統領自らが陣頭指揮をとって中国企業と進めた港湾開発の失敗によるところが大きい。投資が回収されないため、借金の代わりに中国に港の運営権を引き渡しています。また親中派のパキスタンも、経済再建をめぐり政情不安が続く中、中国からの債権が重くのしかかっている。カーン前政権が失脚してシャリフ新首相が誕生したばかりですが、いきなり厳しい舵取りとなっています」(同)
債務返済に苦慮したあげく、建設したインフラの運営権を中国に明け渡す——いわゆる「債務の罠」と呼ばれるものだが、ほかにも、ラオスやモンゴル、タジキスタン、キルギスなども、この問題が懸念されている。
「中国はこれまで、インフラ開発費用の返済が滞る国に対し、施設の長期使用権を要求するなど、高圧的な姿勢で“見返り”要求してきました。しかし、その強引なやり方に嫌気がさす国も現れています。このまま反中感情が広がれば、『一帯一路』構想自体が絵にかいたモチになる可能性もあるでしょう」(同)
ロイター通信によれば、ウクライナ難民を最も積極的に受け入れている隣国ポーランドでも、いま「プーチンを支持した中国を非難するウクライナ難民であふれかえっている」と報じられている。アジアばかりではなく東欧地域でも、今後ますます中国批判が拡大する可能性があるという。
前出のジャーナリストが続ける。
「結局、中国外交が失敗しているということです。そもそも中国はウクライナと良好な関係にあったにもかかわらず、習近平はロシアを擁護しました。戦争の長期化という読み違えもあったのでしょう。8日には王毅国務委員兼外相が、中央アジア5カ国との外相会議で、一帯一路への協力強化を呼びかけていますがますが、アジアでも東欧でも中国への反旗が続くようであれば、習主席の『偉大な夢』は打ち砕かれかねません」
世界情勢を読み違えた習近平の「一帯一路」が行き着く先とは……。
(灯倫太郎)