ウクライナはすぐに陥落するはず——。ロシア帝国の栄光を取り戻すことを夢見てウクライナ侵攻を始めたプーチン大統領。しかし思惑通りにことは運ばず、戦争開始以来、ロシア側は大量の装備を失い、人的損害も数万人規模に及ぶといわれる。
結果、ロシア軍が世界に露呈したのが、「最強神話の崩壊」と「兵士の士気と錬度の低さ」という惨憺たる事実だった。
「英国防省は30日、ウクライナに侵攻するロシア軍の一部で反乱がおきているという複数の報告があることを明らかにしました。ロシア軍は中・下級将校が壊滅的損害を受けており、経験豊富な指揮官が不足。ますます兵士の士気の低下と規律の悪さを招いているというのです」(国際情勢に詳しいジャーナリスト)
「強いロシア」を標榜するプーチンなら欧米の言いなりになっているウクライナを取り戻せる…と、国民のプーチンへの支持は依然として高い。だが、戦争が長期化することで、不満の声も上がり始めた。そこで再び脚光を浴びているのが、あのヨシフ・スターリンというのである。
スターリンと言えば、市民や政敵を弾圧、周辺国への侵攻を重ねた旧ソ連の独裁者。1917年のロシア革命に加わり、「ソ連建国の父」とされるレーニンの死後、最高指導者としての地位を確立。反対派に対する厳しい弾圧をはじめ、その多くを強制収容所に送り込み粛清したことで知られる。1939年に、反共主義・反スラブ主義を掲げるナチス・ドイツと独ソ不可侵条約を結びポーランドに侵攻したが、これは来るべきドイツとの戦いを見越したものとも言われ、1941年に始まったの独ソ戦では民間人にも多くの犠牲者を出す史上まれに見る残酷な戦争となったが、これに勝利。そして、第2次大戦末期には日ソ中立条約を一方的に破棄して対日参戦。終戦後に千島列島・北方領土に侵攻し、60万人を超える旧日本軍の兵士を抑留した為政者だ。
ロシア国内には現在もなお、冷戦期に米国と世界を二分した〝超大国ソ連〟への郷愁から、依然としてスターリンに対する支持がある。2019年に行われた独立系世論調査機関『レバダ・センター』の調査によれば、7割がスターリンを「ロシア史において肯定的な役割を果たした」と回答したとされる。そして、対ナチ戦の意義を強調することで図らずも、スターリン人気を再燃させた男こそ、ほかならぬプーチン大統領だった。
「ところがウクライナ侵攻の不調により、ロシア保守層からは『好んで始めた戦争に勝てず、国民を疲弊させているだけではなく、政権にはイデオロギーの中核がない』として、プーチン氏の対外政策はスターリンと比べ『まったく手ぬるい!引きずり下ろすべき!』といった批判的な声が続出しています。彼らの主張は『ロシアは民主主義ではなく、必要なのはあくまでツァーリ(皇帝)』ですから、弱い独裁者では意味がない。このままプーチン氏の失策が続けば、クレムリン内でそういった保守派によるクーデターが起こる可能性も十分考えられるでしょう」(同)
プーチン政権はいま、国の内外で危険な局面に立たされている。
(灯倫太郎)