現在、ロシアが保有する核兵器の規模はいかほどか。黒井氏によれば、
「米露間には、核兵器の軍縮条約である『新START(新戦略兵器削減条約)』が締結されています。互いに保有する核兵器の数を規定するもので11年に発効し、21年1月にはバイデン大統領とプーチン大統領との間で26年2月までの延長が合意に達しています」
この条約でロシアが保有していい配備可能な戦略核弾頭は1550発。ただし備蓄の戦略核弾頭と非戦略核弾頭には数量制限がない。そのため、現在のロシアは戦略核、非戦略核合わせて約6000発を保有するとみられている。
「戦略核と非戦略核の違いを簡単に言うと、射程が長く爆発の出力が大きいものが戦略核、低出力のものが非戦略核で戦略核は威力が強すぎるために使用すれば世界の終わりを迎えかねない。いわば、抑止力として作用しているのですが、非戦略核は局地的な戦闘での使用を前提としています。後者は『戦術核』や『小型核』とも呼ばれ、報道などでロシアの先制使用が懸念されているのも、こちらになります」(黒井氏)
小型とはいうものの、その破壊力は決して侮れるものではなく、
「おそらく現状の主流となるのは数十キロトン級の核兵器で、広島の倍以上の被害が出ると推測されています」(黒井氏)
ウクライナ侵攻時には兵士の練度や士気の低さ、あるいは燃料や食料などを届ける兵站部隊と前線との乖離など、様々な問題が噴出したロシア軍だった。が、こと核兵器の質と量に関しては、アメリカをもしのぐとされる。
4月20日に発射実験成功が発表された新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」は、10以上の核弾頭を搭載することができる。また、地上発射型ミサイルシステム「イスカンデルM」は、ウクライナ侵攻にも使用され、核弾頭を搭載した射程2000キロ以上の巡航ミサイルが発射可能だという。5月4日にはロシア軍が、リトアニアとポーランドの間にある飛び地・カリーニングラード州で模擬発射訓練を行っているように、イスカンデルは輸送もできる。仮に極東ロシアに配備されれば、日本に照準を合わせることが可能となる。
そんなロシア軍の最新兵器の中で、もっとも脅威が増しているのが極超音速弾道ミサイル「キンジャール」だ。戦闘機から発射されるため、より加速してマッハ10というスピードが出るとも言われ、撃ち落とすことは極めて困難だ。軍事ジャーナリスト・井上和彦氏が語る。
「3月にウクライナで使用され、軍事施設等を破壊しました。この時、使用されたのは核兵器ではありませんでしたが、キンジャールは核・非核両用のミサイル。以後は使用しておらず、試験運用的な意味合いもあったと思いますが、『いつでも撃てるぞ』という、ロシアからのシグナルと見ていいでしょう」
*「週刊アサヒ芸能」5月19日号より。【3】につづく