元首相は突っ込まれなくてホッとした!? ゼレンスキー大統領、国会演説の裏評価

 1回目はEUで行われ、16日にアメリカ連邦議会で、22日にイタリアで行われていたウクライナのゼレンスキー大統領の各国向け演説。名調子が続いていたので日本でも!と期待されていたのだが…。
 
 23日夕方に行われた国会演説は、終わってみれば「良い演説だった」「これは日本人好み」と国民の受け止めはまずまず好評。政界の反応も「感銘を受けた。わが国としてもロシアへのさらなる制裁と追加の人道支援を考えたい」(岸田文雄首相)、「まさに命がけの演説で強く心を揺さぶられた」(高市早苗政調会長)と、高く評価する声が相次いだ。

 一方、ネットには「批判も嫌味も皮肉もなかったな」「流石に扇動的な表現は避けてきたか」といった、どこか肩透かしを感じるような意見も多い。

 そのゼレンスキー氏、アメリカでは「私には夢がある」とキング牧師の歴史的名演説の言葉を引いたり、イギリスでは「生きるべきか死ぬべきか」とシェイクスピアのセリフを引用したりと、先方の文化的な矜持をくすぐり懐に入り込む。そしてアメリカには「飛行禁止区域」の設定を望み、それが無理なら武器の提供を要求してしっかりとネゴシエーションをかませ、ロシアにエネルギーを大きく依存してきたドイツに対しては「新しい壁が出来た」と皮肉タップリの批判も行う。そういったこれまでのスリリングな場面に比べれば、日本の国会演説の内容は概ね「謝意」でまとめられ、迫力がなかったのは事実だ。

 それに関して全国紙記者が解説する。

「ゼレンスキー大統領の心中には、NATO諸国に対しては『だから言ったじゃないか』という思いがあるでしょう。ロシアがウクライナに侵攻する前にゼレンスキーはNATO諸国に厳しい制裁措置を訴えていましたが、結局はそれに踏み切ることはなく、誰もプーチンを思いとどまらせることは出来なかったですからね。ドイツがロシアから引かれたパイプラインの『ノルドストリーム2』がその最たるもので、ドイツが承認停止したのは侵攻からわずか2日前の2月22日のこと。翌日にはドイツのハーベック経済・気候保護相が『そもそも建設されるべきではなかった』と述べていますが、ゼレンスキーには『何をいまさら』としか聞こえていなかったでしょう」

 そして、日本向け演説は「結果的にはこれで済んで良かったという見方もある」として前出・記者はこう続ける。

「アメリカ演説でパールハーバーについて触れたことで日本に少なからぬハレーションが起こったことで、日本側はあまり過激なことは言わないように働きかけをしていました。また、既にシェルやエクソンモービルは撤退していますが、日本が撤退を決めかねているサハリン1、2の油田開発のこともありますし、安倍首相時代にプーチンと蜜月外交を展開して経済協力を約束したことに突っ込みを入れられるのでは、という憶測も広がっていましたからね」(同)

 もっとも、ゼレンスキー大統領にしてみれば、もともと日本には軍事支援は望んでおらず、経済制裁しかできないのは承知の上。いたずらに日本を挑発するメリットはない。

「紛争当事者」に語らせるのは良くない!とツイッターで演説に異を唱えていたジャーナリストの鳥越俊太郎氏は、アメリカでリメンバー・パールハーバーを言うなら日本では“リメンバー広島・長崎”を言うべきで、「そこを外したら奴は単なるアホだ!」と強い口調で訴えていたが、そもそも最初から梯子を外された格好に。そういったことを含め、じつに巧みな演説だったと言えるだろう。

(猫間滋)

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