ウクライナのゼレンスキー大統領が反転攻勢へ向け、いよいよ本格的に動き始めたようだ。
ロシアの国営放送「タス通信」によれば、ゼレンスキー氏は29日、自身のテレグラムチャンネルに演説動画をアップ。「弾薬補給、旅団の訓練、ウクライナ軍の戦術だけでなくその“時期”についても、総司令官と戦術部隊司令官からの報告があった。我々がいつ進撃するかという時期に関するものだ。決定は下された」と述べたとし、これはロシア軍に向けた大攻勢開始の予告である、と報じた。
「ウクライナ軍による大攻勢は、雪解けでぬかるんだ地面が固まる春頃と予想されていましたが、西側からの武器供与が遅延するなど多少のタイムラグがあった。それが5月下旬になり、西側からの支援物資の補強が完了。地面も乾燥して固まり、部隊の装備移動が容易になった。つまり、反撃作戦の条件がすべて整ったということです。タス通信が報じたように、今回のゼレンスキー発言は、大攻勢予告であると捉えて間違いないでしょう」(ロシア情勢に詳しいジャーナリスト)
翌30日には反転攻勢に先駆けるように、ロシアの首都モスクワでドローンによる攻撃が発生。ロシア国防省は、8機のドローンが関与したウクライナによるテロ攻撃と断定。「うち3機が電子戦システムによって制御を失って落下し、残り5機はモスクワ郊外で地対空ミサイルによって迎撃した」と発表した。
前回のクレムリンへのドローン落下騒動以降、ウクライナ軍による戦闘がロシア国内に及ぶ懸念が強まる中、国内の強硬派たちの動きも活発化してきているという。
「その代表格は『ワグネル』創設者のプリゴジン氏で、同氏は23日にSNSにアップした映像の中で『ウクライナは世界最強の軍隊の一つになった。ロシアがウクライナで損失を積み重ねれば革命が起きかねない』として、プーチン氏に総動員と戒厳令の全土発令を求めています。また、強硬派勢力の急先鋒で、ウクライナからテロで起訴されている元ロシア軍将校イーゴリ・ギルキン氏らも政治団体『怒れる愛国者クラブ』を設立し、ロシアの戦いぶりについて『受け身に回っていて、作戦の目的が達成できていない』『指導層は取るべき行動がわかっていない』と批判を繰り返しています」
強硬派らが描く最悪のシナリオは、今回のウクライナ軍による大規模反転攻勢で露軍が敗北を期し、国内で大混乱が起こるというものだが、
「強硬派らが過激発言を繰り返し世論の反発や動揺が広がれば、政権の土台そのものを揺るがす危険があることはプーチン氏も重々承知しています。一方、露軍が敗れた場合には、米欧の息がかかったリベラル勢力が政権転覆を企てる可能性もあり、まさに四面楚歌の状態。だからこそ何としてもウクライナ軍の反攻を凌ぎ、米欧の『支援疲れ』を待つことが得策だと考えている節がある。ただ勝負というのは、攻めから守りに転じた瞬間に、結果が見えるもの。そうなると、反攻に耐え切れず、追い詰められたプーチン氏が核を使用するというシナリオも考えられなくはない。そんなぎりぎりのせめぎ合いが今後、続くことになるはずです」(同)
戦果を挙げられない苛立ちと反攻への恐怖。そして国内強硬派からのプレッシャー…。いずれにせよ、このロシアとウクライナの対戦は、6月が山場になりそうだ。
(灯倫太郎)