チェルシーが草刈り場に!? 露オリガルヒ制裁で英サッカーに甚大ダメージ

 今年2月にUAEで行われたサッカー・クラブW杯で南米王者のパルメイラスを下して、念願だったクラブ世界一に初めて輝いたばかりの英プレミアリーグ・チェルシーの行く手に暗雲が広がっている。オーナーのロマン・アブラモヴィッチ氏が、今や世界中から注目されているロシアの新興財閥・オリガルヒの1人で、彼らへの経済制裁によってクラブは実質的には政府管理下に置かれてしまったからだ。

「アブラモヴィッチ氏は石油取引で財を築いたユダヤ系ロシア人で、親プーチン派とされています。03年に多額の借金で苦しんでいたチェルシーを、当時276億円という金額で買収。すると低迷続きだったクラブに潤沢なポケットマネーで有力選手を獲得して、現在のような世界の中でも指折りのビッグクラブにまでに育て上げました」(スポーツライター)

 ところがロシアがウクライナに侵攻したことで危機に陥った。2月26日には自らチェルシー財団にクラブを譲渡して、売却で得た利益は戦争被害者の支援活動に寄付する意向を示し、財団はクラブの売却先を探していたものの、イギリス政府はアブラモヴィッチ氏の資産凍結と海外渡航の禁止を決定したため、クラブは政府与りのような状態となった。

 よって、1カ月2800万ポンド(約43億円)の選手・スタッフへの人件費は支払われるが、試合日の支出は1試合90万ポンド(約1億4000万円)まで、遠征費用も同2万ポンド(約300万円)という上限を課されることになった。サポーターは現在の措置が停止されるまでは複雑な気持ちだろうし、選手は早くチームを抜け出す算段を行うだろう。17日には米大リーグ・カブスのオーナー率いる共同事業体が買収に乗り出すとの声明を出し、売却実現の可能性は高いと見られているが、はたして所属選手の高い年俸が支払えるのか不透明で、他FCによる選手の草刈り場となれば弱体化は必至だ。

 プレミアリーグには他にもオリガルヒへの制裁で資金面で不安に陥ったチームがある。リバプールをホームとする名門エバートンだ。かつては輝かしい歴史を誇ったが、1992年にプレミアリーグに移行してからは中位に甘んじている。それでもマージー川を挟んでホームスタジアムが500メートルほどしか離れていない、ビッグクラブのリヴァプールとの「マージーサイド・ダービー」となると白熱した戦いを繰り返す人気チームだ。

「エバートンの大口スポンサーが、世界最大の天然ガス企業・ガスプロム社の最重要人物とされるアリシェル・ウスマノフ氏で、当然オリガルヒの1人です。クラブ運営会社は株式を通じてウスマノフ氏の支配下にあるので、実質的には彼がエバートンの影のオーナーということにもなります。そのウスマノフ氏が制裁の対象となったことで、彼のイギリス国内における資産は凍結、そこで一気にロシア系企業3社のスポンサー契約が停止に追い込まれました。ただエバートンに関しては、ロシアがウクライナに侵攻する前からチームは絶不調で、3月13日にあったホームの試合で敗れ、これで今季リーグ戦は20戦でわずか2勝と、2部降格の危機にさらされています」(同)

 こちらも潤沢な資金でチーム強化に当たってきたが、どうも上手くはいっていなかった。そこで監督にACミランやレアル・マドリードで幾多のタイトルを獲得してきたカルロ・アンチェロッティを招聘するも、今シーズン前にレアル・マドリードに引き抜かれ、さらにはライバルのリヴァプールで成功したラファエル・ベニテスを監督に据えるもチームは振るわず、ベニテスはわずか半年で解任された。そして2月からは、選手としてもイングランドサッカーのレジェンドであるフランク・ランパードに再生を任せたが、そうそうに芽を結ぶわけもなく、苦戦を強いられている。

 優勝を狙うチームに2部落ちを争うチームにと、チーム事情は全く異なるが、いずれにせよ世界で最も強豪チームがひしめいて、そのため外国資本が多く進出するプレミアリーグへのオリガルヒ制裁が落とす影は、ひときわ暗いものとなっている。
 
(猫間滋)

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