「えらいやっちゃ、えらいやっちゃ、ヨイヨイヨイヨイ……」
三味線や太鼓などに2拍子のリズムに合わせて人々が踊り歩く。400年の歴史を持ち、日本3大盆踊りの1つである阿波踊りと言えば徳島で、徳島と言えば阿波踊りだが、その阿波踊りを巡って対立が起こり、対立を通奏低音としながら政治も分断の状況が続いている。それが今回は、現職市長へのリコール問題にまで発展しているのだという。
「現職の徳島市長の内藤佐和子さんのリコールを求める市民団体によって署名活動が行われ、締め切り最終日の3月4日15時までに、リコールに必要な有権者の3分の1(7万660人)を超える7万1530筆が集まりました。これにより市の選挙管理委員会に署名が提出され、スムーズに事が運べば、60日以内に市長解職の是非を問う住民投票が行われることになります」(全国紙記者)
地方自治法では、首長のリコールには基本的に住民の3分の1以上の賛成者の署名を集める必要があるので、なかなか難しいチャレンジとなる。明確な不正や私物化、行政手続きの不備がないと、そもそも署名活動すら始まらないからだ。ところが徳島市では住民投票にまで進展しそうな勢いなのだ。一体何があったのか。
まずは内藤市長に触れると、東大出身で現在37歳。東大在学中には、「多発性硬化症」という難病との闘病記を綴った「難病東大生」という本も出版している。大学卒業後は徳島に帰り、地元テレビ局の情報ワイド番組のコメンテーターも務めていた。つまり、地元の有名人だ。そして20年4月に行われた徳島市長選に立候補し、自民党の支援が前職市長との間で割れた保守分裂の激戦を制し、当時36歳0カ月という、女性最年少市長となった。だから、任期のほぼちょうど折り返しのタイミングで早くも“解職動議”を突き付けられたことになる。
「問題はいくつか指摘されています。例えば直接的な発端としては、私立の保育事業への補助金で、既に予算化されていたものを見直しとしたこと。時代に逆行するとの批判を浴びました。また、選挙の公約では市長の給与の50%カットを掲げていましたが、昨年3月には市長は15%に緩和する改正案を提出。それも議会で否決されると、4月からは満額を受け取るようになりました」(同)
そもそもこれらは市の財源不足があったから揉めたわけで、地方が沈みつつある中でも徳島は特に厳しい。20年にセブン&アイホールディングスが傘下のそごう・西武の百貨店事業の見直しを行った際、徳島そごうの撤退が決まって、全国で唯一百貨店のない県となった。そんな不景気な話は、徳島最大のセールスポイントである阿波踊りの現場でも噴出していて、以前から関係者が対立。その根の深さから、伏魔殿と形容すべきものとなっていた。
「毎年8月の中旬に4日間行われている徳島阿波踊りには120万人の観光客が訪れて補助金も出ているにもかかわらず、赤字の垂れ流し状態だったことが18年に明るみになりました。そこで遠藤彰良・前市長が民間の共同事業体に運営を委託したところ、運営を巡って複雑な対立が発生、20年の選挙はこの対立を反映した“代理戦争”となりました。そうして内藤市長が誕生したわけですが、20年はコロナで阿波踊りは中止。21年には復活しましたが、密を避けた小規模開催でチケット販売は振るわず、一方で新たな運営会社と市がまた対立して提訴の動き……と、一向に運営を巡るゴタゴタが解決されない状態が続いているんです」(徳島市民)
リコールを進める市民グループはユーチューブを通じて内藤市政を批判。遠藤前市長や一部市議も加わって20年の選挙戦さながらの対立構造を呈している。
もちろん今年の開催でもコロナの感染状況が気になって「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ」な状況なのだが、これを巡るに人間関係も「えらいこと」なのだった。
(猫間滋)