阿佐ヶ谷姉妹を圧倒したムロツヨシのトーク術!少数精鋭事務所の“特異性”

 所属タレント数日本一を誇る吉本興業のみならず、様々な芸能事務所がお笑いに参入しており、新興プロダクションの台頭も著しい。多数のアーティスト・俳優を抱える音楽系芸能事務所「ソニーミュージックアーティスト(SMA)」は、04年にお笑い部門を設立。「キングオブコント」でバイきんぐ、「R-1ぐらんぷり」(現「R-1グランプリ」)でハリウッドザコシショウとアキラ100%、「M-1グランプリ」で錦鯉が優勝に輝き、吉本以外でコント、ピン芸人、漫才のトップに立った唯一の事務所となった。

 そんななか、91年の設立から独自のペースで歩み続けているのがASH&Dコーポレーション。プロダクション人力舎から独立したシティボーイズ(大竹まこと、きたろう、斉木しげる)が個人事務所としてひっそりスタートさせ、07年にイケメンコントコンビ・THE GEESEがネタ番組を中心に躍動。ムロツヨシが福田雄一監督に見いだされたことによって、一気に波に乗った。18年には「女芸人NO.1決定戦 THE W」で阿佐ヶ谷姉妹が優勝。所属タレントとスタッフを足しても30名に満たない小さな所帯だが、量より質を重んじる経営理念で信頼を得ている。

 稼ぎ頭であるムロは、舞台に映画、テレビドラマやバラエティといったオールジャンルに対応できる俳優。演技力があり話術も達者とあって、幅広い仕事に恵まれている。売れてもなおスケジュールが空くと、数百人しか観客がいない事務所主催の若手ライブにやってきて、司会をするという。

「事前に告知すると、チケットは即完。客の大半がムロさん目当てなので、結果的に司会者のオープニングトークがその日でいちばんウケてしまう。ネタを磨いてきた若手芸人にとっては、やりがいを得られないライブになってしまうそうです。阿佐ヶ谷姉妹もその“餌食”になったことがあるとか」(エンタメ誌ライター)

 ASH&Dの特色は、少数精鋭でアットホーム。簡略化が叫ばれるオフィスの仕組みにおいても、給料は手渡しを貫く。事務所まで取りに来させることで、月に一度顔を合わせ、近況報告の場にしているのだ。かつて阿佐ヶ谷姉妹はバラエティ番組で、窓にカーテンがないこと、トイレの電球のワット数が低いことをネタにしていたが、事務所への不満はその程度。新年会や忘年会、麻雀大会などの恒例行事が多く、交流を重んじる。

「タレントオーディションを開催せず、基本は発掘。阿佐ヶ谷姉妹は、事務所ライブに出演したことで時間をかけて所属が認められました。ムロさん人気も相まって、この数年は全国から応募メールや手紙が届くそうです。それでも、ほぼ採用に至らないほどの狭き門」(前出・エンタメ誌ライター)

 いっこうに芸人が増えないことに業を煮やしたTHE GEESEの尾関高文は、フリーランスだったラランドをスカウトしている。しかし、サーヤは断り続け、昨年3月に個人事務所「レモンジャム」を設立した。

 THE W王者さえも凌駕するムロという“怪優”。稼働率ではASH&Dはトップクラスだろう。

(北村ともこ)

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