徳光和夫「毎日が一大事。いまこの時をゆっくり豊かに生きようと」

テリー 僕、全然知らなくて驚いたんですけど、奥様が初期の認知症になられたと、本に書いてますね。

徳光 物覚えの能力がどんどん低下して、「あれ、今言ったことをまた言ってるな」とか、どこに何を置いたかも、ほとんど覚えていられないことが増えてきましてね。一日中、探し物をしたり、同じ話をしてます。

テリー そうなんですか。

徳光 でも、ちょっといい子ちゃんになっちゃうんですけど、僕はずっとギャンブルはやる、家は顧みない。「ズームイン!!朝!」時代には10年間単身赴任で、日本テレビの近くにマンションを借りて、割と好きなことをやってたんですね。もしかするとかみさんは、そういったことの積み重ねが脳の疲労になって、今日に至ってるんじゃないかなって思うんですよ。そうすると、今までの罪滅ぼしじゃないけれども「こいつを残しては逝けないな」っていう気持ちになってきましてね。だから今は、少なくともかみさんのために、少し人生を割かなければいけないなと思ってますね。

テリー そうすると、最近は奥様と一緒にいる時間を増やしてるんですか。

徳光 それこそ多い時は1日に20回ぐらい同じ話をするんですけれども、常に新鮮に、乗って話し相手になるよう努めていますね。彼女がこういう話をしそうだなっていう時には、そういう質問をあえて全く別の角度から「あれは何だっけ」なんて聞くと、喜んでさっき話したばかりの話を僕にしたりするんですよ。知らずに見たら、全く普通の明るい女房ですよ。だから、このままでいきたいなと思ってますね。

テリー これまでの仕事を振り返りつつ、長嶋さんやジャイアント馬場さん、それから美空ひばりさんとの思い出なんかも書かれた本じゃないですか。その最後にこの話題を持ってきたのは、なぜだったんですか。

徳光 僕ね、実は「認知症予防大使」をやってるんですよ。それで、いろいろな認知症の方々の会に出たりいたしますとですね、こういう場で発表できる立場の人間が、素直に自分自身の足元を見つめて、発言していくべきだと思うんですね。テレビなんかでも言わなくはないんですよ。ただ、あんまりちょくちょく話すといやらしくなるし、女房も傷つくと思いますんで、そんなに頻繁には話してないんです。

テリー なるほど。

徳光 でも、本を買って読んでくださる方の中に、もし同じような境遇の方がいらしたら、「僕はこういうふうにかみさんと接してます」という実体験が、いくらか参考になるんじゃないかなと。長嶋さんがリハビリに取り組んでる全国の方々の少しでも力になれればと、不自由になった体をさらけ出してるからというわけじゃないんですけども。テリーちゃんのところは、そういうことない?

テリー うちのかみさんは、もしそうなったら病院に入れてくれって言ってますけどね。

徳光 でもね、実際、それはできないんだよ。うちのかみさんも料理の味は落ちないわけ。昔から料理が得意なんですけども、料理も後片付けも、普通に日常生活は送れるんですよ。もし認知症が進行して、生活全般に支障が出るようになったら、また考えなきゃいけないかもしれないけど。だから、このままいければいいんですけどね。

テリー そうですね。

徳光 でも、心配したらキリがないんで。毎日ただいまこの時を生きようと。「一大事とは今日只今の心なり」という言葉があるようにですね。毎日が一大事で、ただいまこの時をとにかくゆっくり豊かに生きようと。今はそういったような気持ちですね。

テリーからひと言

大先輩のいろいろなお話が聞けて、ほんとに楽しかったな。まだまだパワフルに、100歳までしゃべり続けてください。

徳光和夫(とくみつ・かずお)1941年、東京都生まれ。立教大学卒業後、1963年に日本テレビ入社。1989年、フリーアナウンサーに転身。現在は「路線バスで寄り道の旅」(テレビ朝日系)、「名曲にっぽん」(BSテレ東)、「徳光和夫の週刊ジャイアンツ」(CS日テレG+)、「徳光和夫 とくモリ!歌謡サタデー」(ニッポン放送)にレギュラー出演中。最新著書「徳光流生き当たりばったり」(文藝春秋)発売中。

*「週刊アサヒ芸能」1月13日号より

エンタメ