徳光和夫「もう80歳だから思い出も1日に3つずつ消えていく」

 80歳を超えた今もテレビやラジオに多くのレギュラー番組を持つ徳光和夫氏。多忙な毎日でも大好きなプロ野球やギャンブル、そして長嶋茂雄への愛が衰えることはない。長くテレビ界に身を置く旧知の2人が、ミスターや新庄、さらに老後についても語り合った。

テリー 僕がまだペーペーのディレクターだった頃、日テレの「日曜スペシャル」で徳光さんにナレーションをお願いしたことがあって。そしたら徳光さんが片手に台本、片手に競馬新聞を持って現れて、「今からレースが始まるからちょっと待って」って、僕待ったことがあるんですよ。当時、けっこうああいうことってあったんですか。

徳光 ありましたね(笑)。昔からギャンブルが好きで。特に大事なレースの時は。

テリー 僕、こんな人いるんだって驚いたんですよ。

徳光 逆に僕のテリーちゃんの思い出は、僕が司会させてもらった番組で、ADのテリーちゃんが前説をやってくれたんだけど、それがすごくウケちゃって、本番で僕が司会しても全然ウケない。ほんとお客さんを乗せるのがうまかったね。

テリー いえいえ。だから、もう徳光さんにはずっとお世話になっていて。この前出された「徳光流生き当たりばったり」も、すごくおもしろく読ませていただきました。

徳光 ありがとうございます。これは出版社からのオファーで出すことになったんですよ。担当編集者の方から「意外にもこれまでの仕事や思い出をまとめた本を出してないんですね」「本という長く残る形にしませんか」と言われましてね。

テリー なんで今までは出さなかったんですか。

徳光 放送って読んで字のごとしで「送りっ放し」じゃないですか。しゃべりはその場で消えていくものですよ。僕はそういう人生を歩んできたから、しゃべったことは残らなくてもいいと。「もう80歳だし、思い出も1日に3つずつ消えていくから、何にも思い出せないよ」なんて言いましてね。「でも、そう言わずに思い出してみてくださいよ」と言われて話し始めると、けっこういろいろ思い出せるもので。そうやって引き出してもらったものを、文章にしてまとめた形なんですけどね。

テリー 徳光さんが長嶋(茂雄)さんのことを神様みたいに思ってることは有名ですけど、やっぱりこの本を読むと、今までずっと長嶋さんを追いかけてるような人生ですよね。

徳光 僕はむしろ、テリーちゃんがミスターをどうお感じになってるかに興味がありますけれども。とにかく僕は高校2年の時に神宮球場でミスターに出会えていなければ、学校の成績がずっとオール3だった僕が、こんなに豊かな生活を得ることはできなかったと思ってます。

テリー 長嶋さんの後輩になりたくて、立教大学を受けたんですよね。

徳光 ようやく補欠合格で入れたわけですけど。

テリー 最初は補欠に気づかず帰ろうとしたじゃないですか。あれ、もう一度見に行かなかったら、どうなってたんですか。

徳光 そしたら、また次の年に受けたでしょうね。でも、ああいうことってあるんですよ。だから、1度見て全てを信用するんじゃなくて、3度4度までは見直しませんけども、必ず2度は見直してから作業に入る。それは僕の仕事の座標軸になりましたね。

徳光和夫(とくみつ・かずお)1941年、東京都生まれ。立教大学卒業後、1963年に日本テレビ入社。1989年、フリーアナウンサーに転身。現在は「路線バスで寄り道の旅」(テレビ朝日系)、「名曲にっぽん」(BSテレ東)、「徳光和夫の週刊ジャイアンツ」(CS日テレG+)、「徳光和夫 とくモリ!歌謡サタデー」(ニッポン放送)にレギュラー出演中。最新著書「徳光流生き当たりばったり」(文藝春秋)発売中。

*(2)につづく

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