「光触媒」とは、光を酸化チタンに当てることで、水が酸素と水素に分解される効果のこと。この「光触媒」の反応を発見、ノーベル賞候補にも名前が挙がる藤嶋昭・東京大学特別栄誉教授と、その研究チームが中国の上海理工大で研究活動を行うことが4日、各メディアによって報道された。
「光触媒は外壁の汚れ防止や、空気を清浄する機器などに実用化され、近年は新型コロナウイルスの感染力を失わせる研究でも注目を集めていました。上海理工大の発表によれば、同大では藤嶋氏のチームが中心となり、光触媒に関する研究所を新設し、研究を進めるとしていますが、藤嶋氏は日本国際賞や文化勲章を受けた、その世界では日本の頭脳と呼ばれる人物。そんな有能な科学者の中国行きに関係者の間からは大きな落胆の声が上がっています」(科学ジャーナリスト)
ここ数年、中国で研究する日本人科学者が後を絶たない。というのも、かねてから科学技術強国を目指す中国は、海外から優秀な人材を集める「千人計画」プロジェクトが進行中で、前出のジャーナリストによれば、
「近年、日本からも中国の大学などの機関で働くようスカウトされる事例が相次いでいて、昨年に大手新聞が反対キャンペーを張り話題になりました。ただ、『千日計画』はある意味きっかけであって、問題の根っこには日本の研究費の少なさや科学者の低い待遇等、根深い問題がある。つまり、彼らも好んで千人計画に参加しているわけではなく、資金不足などから、やむなく中国に流れているというのが実情」なのだという。
では、実際に日本と中国とで、科学者が置かれる環境はどのくらい違うのだろうか。
「中国では基本、大学と地方政府が共同で研究費を用意するため、資金も豊富で給与もある程度高額で保障されています。しかも、中国では給与のほかに、たとえば研究資金として3年間に3000万円が提供される、といったケースはよくある話。一方、日本ではたとえ米国で博士号を取っても、帰国後には仕事が見つからず、研究室も用意してもらえないという研究者は少なくない。研究者にとって研究資金は必要不可欠ですからね。中国に行けば資金を心配することなく研究に没頭できるとなれば、そちらに流れるのは自然の理でしょう。ですから問題は、日本における研究環境にあるということです」(前出・ジャーナリスト)
科学の世界に限らず、どんな業界でも一番難しいとされるのが、人材確保だ。日本の未来は科学技術の発展抜きには語れない。そのことを政府は再認識すべきだろう。
(灯倫太郎)