世界の福本豊〈プロ野球“足攻爆談!”〉「阪神のとてつもないサトテル効果」

 阪神が開幕ダッシュに成功した。5球団と一回り対戦が終わって、16勝6敗で首位に立っている(4月22日現在)。投手陣が安定しているし、そこそこ点を取れている。他球団は故障者が出たり、外国人がいなかったりで、チーム状態が悪いのもある。でも、何より大きいのはサトテル効果やろな。ドラフト1位の佐藤輝明の存在がベンチを明るくしている。

 ほんまに客を呼べる選手。いくら三振しようが、次の打席でとてつもないホームランを打つかもという期待感がある。ファンだけでなく、味方の首脳陣も選手もそんな感じで見ている。キャンプからその飛距離にみんな口をあんぐりしてたけど、公式戦でもとてつもないものを見せた。9日のDeNA戦で横浜スタジアムの右中間方向へ場外アーチ。勝利投手の藤浪がヒーローインタビューで「初めて見た。みんなドン引きでした」と冗談交じりに話していたけど、規格外の選手でスケールが違う。

 そら、相手投手も怖いはず。たとえバットの芯を外しても、軽々とスタンドまで運ぶパワーを持ってるんやから。オープン戦では6本塁打の新人最多記録を作って、開幕戦のヤクルトはショートが二塁ベースの後ろを守るシフトを敷いてきた。開幕戦でいきなりシフトを敷かれる新人なんて今まで見たことがない。配球も徹底した内角攻め。日本シリーズでヤクルトの野村監督がイチローに対して行ったような攻め方やった。

 確かに佐藤輝も内角をムキになって振りにいく面はある。三振数が多く、解説者からもいろいろ言われている。でも、僕は今のスタイルを貫けばいいと思う。三振をいくらしようが、最低でもホームラン20本は打つはず。ひょっとしたら30本以上打つかもしれない。これほどの選手に対して、小さくまとまる危険がある指導はしないほうがいい。スーパースターになるような選手は、ほっといても自分で壁を乗り越えていく。

 阪神はもう一人のルーキーも頑張っている。ドラフト6位で入団した中野拓夢。三菱自動車岡崎から入団した24歳が、打数は少ないけど、開幕15試合を終えた時点で5割以上の打率をマーク。ショートのレギュラーを奪いそうな勢いを見せている。指名したスカウトも驚くぐらいの掘り出しモノ。二遊間の守備がうまく、足が速いのがセールスポイントやったけど、キャンプからビックリするほどの打撃センスを見せつけている。左の足の速い選手にありがちな、いわゆる当て逃げなんかせずに、しっかり下半身を使って振り切るスイングができている。

 ショートのレギュラー争いは中野だけでなく、巨人からトレードで加入した山本もいい味を出している。昨年までのレギュラーの木浪は2人の勢いに押され気味やけど、守備もうまくなっているし、これから意地を見せると思う。こういうチーム内の激しいポジション争いが活気をもたらす。

 これだけチームがいいリズムで回ると、逆に合流が遅れている新外国人が2人加わってリズムが狂わないか心配になる。韓国球界で本塁打と打点の2冠のロハスは、高い金を出して取ってきたし、外野で使わないわけにはいかない。まさか佐藤輝を外すわけにはいかんし、レフトのサンズが一塁に回ることになるのかな。矢野監督が他球団もうらやむ分厚い戦力をどう使いこなすのかも注目やね。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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