北海道警元刑事がバラした「裏金口座とシャブ隠蔽」(3)「残りは小遣いにしていい」

 稲葉氏にとって「警察の裏金問題」は、忌々しい記憶に違いない。03年11月に北海道新聞の調査報道で、北海道警察旭川中央警察署の不正経理が発覚し、その後、別の警察署でも同様の事態が判明。警察関係者が大量処分される事件が起きた。「警察のウラ知識」でも最大級のタブーとされる「裏金作り」について言及。稲葉氏も上司の指示で手伝わされていた。その過去を振り返って明かす。

「駆け出しの刑事だった24歳の頃、印刷された領収書がすでに出来上がっているのを見た時は驚きました。B5くらいの紙に、日付や場所、架空の捜査協力者の名前などが鉛筆で下書きされています。月によって1人5枚、10枚とバラバラですが、それを書いて上司に提出する。刑事としては気分がよくないし、なんでこんなことをしなきゃいけないんだと疑問に思うけど、拒否すると『あいつは〇〇党の考えを持っている』とか、陰口を叩かれて袋叩きにされてしまうんです」

 捜査員全員に裏金作りの片棒を担がせることで、裏切りを許さない状況に追い込んでいたと証言するのだ。

「90年代中頃にはもっとひどくなっていて、捜査員各自に北海道銀行で通帳を作ってこいと指示が出ました。北海道警察本部からお金が振り込まれるからって。その後は金額が書かれた小さなメモ用紙を渡されて、例えば13万円が振り込まれたら、12万5000円下ろしてこいと。残りは小遣いにしていいからと、毎回その作業をさせられます。裏金用の通帳を残すなんてずさんなやり方だし、ずっと持っていたので刑務所に服役した時、弁護士に証拠として提出しました」

 通帳まで用意させてせっせと貯めた裏金は、いったい何に使われるのか。

「慰労会の費用に使うこともありますが、ほとんどは作らせた『偉い人』が異動の時に全部持っていってしまいます」

 警察の縦社会では、正しくないと思っても逆らうことができない、根深いパワーバランスが存在しているのだ。

「偉い人」のフトコロが潤っていくのに比べ、「銃器捜査のエース」は、仕事をすればするほどお金の工面に頭を悩ませることに。ついには、

「エスと一緒にご飯を食べた時など、支払いは全部自腹。貯金も切り崩し、それがバカらしくなって覚醒剤を売るようになりました。東京にエスのシャブ屋がいて、『この日に入ります』って教えてくれるんです。それで今度は、各方面のヤクザのシャブ屋に伝えて、小分けしたものを待ち合わせ場所にまとめて持っていき、あとは売らせるだけ。丼勘定だったけど、1キロで1000万円以上の上がりになりましたね」

 典型的な「ミイラ取りがミイラになった」ケースだが、現在は薬物依存など依存症の正しい知識を広める講演を行い、かつての「負の経験」を生かした活動を展開している。果てしない警察の闇はいつ霧消するのか。

*「週刊アサヒ芸能」4月8日号より

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