ここで番外として、丑年に公開された映画から、性的興奮を喚起する傑作をリレー方式でつないでみたい。干支の12年周期には、ひとつの共通項があるように思える。
オイルショックに見舞われ、当時の宰相・田中角栄が奔走した73年。ヒット曲「神田川」(南こうせつとかぐや姫)や、人気コミック「同棲時代」(原作・上村一夫)によって、流行語となったのが〈同棲〉だ。
そして「同棲時代─今日子と次郎─」(松竹)が映画化されると、日本中に衝撃が走った。清楚なアイドル女優だった由美かおるが、一糸まとわぬ姿になったのだ。
週刊アサヒ芸能16年のインタビューで、由美はこう語った。
「私は23歳でしたから『同棲』という経験もありませんし、初めてのベッドシーンもどう演じていいかわからない。山根成之監督に『はい、こっち向いて、1、2、3、4』と言われるまま、バレエのカウントを数えるような形で、無我夢中で演じていました」
形のいいヒップを見せつけた映画のポスターは、あちこちで盗難が続出するほど騒然となった。
同じ年、関根恵子=現・高橋惠子=は「朝やけの詩」(東宝)で、北大路欣也を相手に野性的なラブシーンを見せた。大自然をテーマにしていたため、ロケは大変だったと、12年に週刊アサヒ芸能に明かしている。
当時のインタビューで 彼女は、各地をロケして、湖に生まれたままの姿で入るシーンは長野の明神池だったとしたうえで「ところが、管轄する環境庁からクレームがついて、場所を青木湖に変えて撮り直しになりました」と振り返った。
実はあまりにも湖の透明度が高く、ヘアが映ってしまっての撮り直しでもあった。
そして、日航機が御巣鷹の尾根に墜落し、阪神タイガースが21年ぶりに優勝したことで記憶される85年。古手川祐子初めて全肌を披露したのが「春の鐘」(東宝)だった。東宝専属のお嬢様女優が脱ぐことも異例のことであり、北大路欣也との2分に及ぶカラミで、形のいいバストと悩ましいアエギを響かせた。
実は本作では、国民的女優の三田佳子が初めて脱ぎ姿を披露することになっていたのだ。いや、実際に脱いだと、三田自身が堺正章との雑誌対談で証言している。それによれば、「蔵原惟繕監督に『三田さんが出ないならこの作品はやめる』と言われまして」 として、三田は、「意気に感じて」初めて脱いだ姿になったのだというが、「ところが、このシーンが長かったので、ばっさりカットになっちゃって」とのことだった。
幻のマッパを見たのは、撮影スタッフのみということになる。
それとは逆に、10代の頃から奔放な脱ぎ姿を見せてきた秋吉久美子が、三十路の妖艶さを放ったのが「ひとひらの雪」(東映)だ。
渡辺淳一原作の不貞モノであり、津川雅彦扮する建築家とW不貞に陥るのが秋吉の役どころ。公開当時、大きな話題となったのが、秋吉の着物をまくって津川がバックから突き立てるシーン。その姿から「孔雀ポーズ」と呼ばれた。
さらに、せつなげに漏らす秋吉のセリフも効果的。
「ヤクザに…しないでください」
秋吉が新境地を開いたとして評判になった。
そして97年、酒鬼薔薇事件が発生し、日本サッカー界が初めてのW杯出場を決めた年、流行語大賞に輝いたのは「失楽園」である。前出の「ひとひらの雪」と同じく渡辺淳一原作で、映画・ドラマともに大ヒットを記録した。
映画版では黒木瞳が不貞心中する既婚者を好演。野天風呂で役所広司にバストを吸われ、トップがピンと勃っているショットはもはや語りぐさに。
またドラマ版「失楽園」(日本テレビ系)では、川島なお美(享年54)がヒロインを演じ、古谷一行と挿入したまま果てるという、テレビコードではギリギリの心中を見せつけた。同年、川島は谷崎潤一郎原作の「鍵」(東映)でも、湯煙にたゆたう全肌姿を見せている。
この年、隠れた名作となるのが「身も心も」(東京テアトル)だ。中年男女の不貞劇を描いたものだが、とりわけ、かたせ梨乃と柄本明のカラミは、同作が成人指定になったほど激しかった。
69の形での愛撫、対面で座ったまま、男が上になり…と目まぐるしく体勢を変え、最後はバックでかたせが咆哮しながら果てる。荒井晴彦監督が週刊アサヒ芸能に「中年のむき出しの性を描きたかった」と語ったが、まさしく、リアルの極致と言えた。
さて、2021年にはどんな愛欲作が生まれるのだろうか─。