大河ドラマ60年を彩った女たち【3】秀吉の正室・ねねを演じた沢口靖子の美貌

 第19作「おんな太閤記」は、脚本家・橋田壽賀子氏が豊臣秀吉の正室・ねね(佐久間良子)を主人公に、女性の目線で戦国時代を描いた。数多の女優たちがねねを演じてきたが、ドラマ解説者の木村隆志氏が注目すべき3人を挙げて徹底比較。ここに深掘り解説する。

 まず一人目は「秀吉」(96年)に出演した沢口靖子(56)だ。秀吉役に竹中直人(66)を起用し、平均視聴率30.5%をマークした。

「竹中の秀吉像はそれまでの格式を打ち破り、汚い身なりや下品な言動は〝サル〟と呼ぶにふさわしいハマリ役。だからこそ、正統派美人の沢口がより際立つこととなり、隠れた代表作になっています」(木村氏、以下同)

 84年の映画デビュー以降、あまりの美貌ゆえに、演技力に疑問符が付くこともあったが、

「『秀吉』では美貌を前面に押し出しながらも、喜怒哀楽をうまく表現して、〝キレる演技〟で笑いも取れることを証明しました。沢口といえば、この3年後に『科捜研の女』シリーズが始まり、以降も警察関係や検事といった役どころが増えていきます。『科捜研』ではさらにイジられキャラへとシフトしていくのですが、〝美人すぎるヒロイン像〟で世間にインパクトを与えたという意味では、ひとつのピークと言っていいでしょう」

 続いては、竹中直人が再び秀吉を演じた「軍師官兵衛」(14年)から黒木瞳(61)を挙げる。

「官兵衛の嫡男で、後に黒田長政となる松寿丸を人質として預かるのですが、とても大切に育てている様子から深い母性を感じました」

 劇中では、松寿丸がおね(ねね)を「おかか様」と呼ぶほど慕い、まるで本物の母子のように描かれている。だが、織田信長が父・官兵衛の謀反を疑い、松寿丸への処刑命令が下る。

「織田家の家臣・竹中半兵衛が策を講じ、処刑を偽装工作した上で松寿丸をかくまうのです。その際、半兵衛はおねだけに松寿丸の居場所を教え、会いに行くのですが、信長にバレたら自身の立場も危うい。リスクをおかしてまで対面を果たしたシーンは多くの視聴者の感動を誘いました」

 母性をめぐる突出した名シーンの影響もあって、側室との諍いにも注目が集まった。

「茶々を演じたのが二階堂ふみ。秀吉が茶々を溺愛すればするほど、おねの立場は弱くなっていく。それでも秀吉が見捨てることはありませんでしたが、黒木のおね像があまりに好評だったために、二階堂への世間の風当たりがどんどん強くなっていったのを覚えています」

 現在放送中の「鎌倉殿の13人」で後白河法皇の愛妾・丹後局を演じる鈴木京香(53)。16年の「真田丸」では、秀吉役の小日向文世(68)の正室・寧(ねい)を演じている。

 当時のインタビューでは、脚本を担当した三谷幸喜氏から、「肝っ玉母さん」のイメージを伝えられ、

「体重を10キロ増やしてくれますか?」

 と要求されたものの、やんわり拒否。水を飲んで顔をむくませていたというエピソードが話題になった。

「ちょっと頼りないところがある秀吉を支える豊臣家のまとめ役といった印象。家族間の諍いの芽を摘み、側室の茶々も、一族の繁栄を願って受け入れます。三谷作品らしく、名古屋弁のセリフ回しで、周囲をパーッと明るくするお母さん。時代劇でありながら、昭和のホームドラマの趣がありました。本作の秀吉には冷酷な一面があったため、鈴木京香のぬくもりある母親像でうまくバランスを取っていた印象があります」

 23年の「どうする家康」で秀吉を演じるのは、ムロツヨシ(46)。正室に選抜される女優は果たしてどんなねね像を見せてくれるのか。今から待ち遠しい。

*大河ドラマ60年を彩った女たち【4】につづく

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