盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!
48歳の新庄のトライアウト挑戦は、球界を盛り上げるという意味ではよかった。4打席目の左前タイムリーは大したもの。ストレートのタイミングに合わせながら、チェンジアップにうまく反応していた。バットのヘッドが出ていくのを我慢して、自分のポイントまで引きつけて、パチンと打てていた。
全打席とも振り回すよりも、ミート中心の当てにいくバッティングながら、形はよかった。本人も言っていたけど、営業面ではかなりの戦力になる。阪神のコーチ時代に見てきた新庄は野球に対して真面目な男やった。オープン戦期間の出場だけでもいいし、話題を作るのもプロとして大事なこと。手を挙げる球団が出ればおもしろいね。
その新庄より10歳若い内川はソフトバンクを自由契約になって、ヤクルト入りが決まった。ウエスタン・リーグでは42試合の出場で3割2分7厘の好成績を残しながら、一度も1軍出場のチャンスをもらえなかった。大きな故障もないし、足回りさえしっかりしていれば、間違いなく戦力になる。ファームといえど、打率3割はなかなか難しい。粗削りでどこに投げてくるかわからないような投手もいれば、1軍投手が調整で投げることもある。実際、2軍でも規定打席をクリアして3割を上回る打者は毎年、数えるほどしかおらん。
内川の広角に打ち分ける打撃技術は、歴代でもトップクラスと見ている。横浜時代の08年にマークした3割7分8厘は現在も右打者のシーズン最高打率。僕は現役時代に3割を打つ目安として「3試合にヒット4本打てばいい」と思ってやっていた。12打数4安打でも、3割3分3厘になるから。でも、3割5分以上となるとまた違う考え方が必要で、異次元の世界になる。
その内川のヤクルト入りが発表された12月8日に、工藤監督の史上最多5度目の正力賞受賞が発表されたのも何かの因縁。4年連続日本一は立派やけど、名将かと言われると、少し違う感じがしている。継投はうまいし、攻撃面でもおかしな采配はない。それでも、最大の勝因は質、量ともに12球団トップの巨大な戦力があるから。自分だけの力ではないことは、本人も十分にわかっていると思う。
博多で関係者に話を聞くと、工藤監督は「ベテラン殺し」と呼ばれている。あれだけ実績のある内川をまったく1軍に呼ばないのは、いいか悪いかは別として、普通では考えられないことやから。ソフトバンクは素質のある若い選手が多いし、内川だけでなく、長谷川やバレンティンら他球団ならレギュラーを張れる選手たちが控えに甘んじている。世代交代のために若い選手を我慢して起用する信念はなかなかのもので、そのおかげで栗原や周東が育って、今シーズン、花を咲かせた。
今年はコロナ禍で交流戦がなかったけど、来年は行われる予定。内川のヤクルトとソフトバンクの対決は興味深いものになる。一度つかんだ確かな技術は簡単にさびることはないし、足腰さえしっかり鍛えていれば、少なくともあと2、3年はやれる。打席の機会が少なくなると目の衰えが進み、反応スピードが遅くなる。1軍で出場機会のないままベンチに座り続けているより、2軍で試合に出ていたことがかえってよかった可能性もある。新天地での内川の意地に注目したい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。