11月9日に米製薬大手のファイザーと独バイオベンチャーのビオンテックが開発中のコロナワクチンが、臨床試験でなんと9割という高い有効性を示したというデータが公表された。この朗報を受けて、コロナの脅威に沈んでいた世界中の株価を一気に押し上げた。日経平均も一時は1000円以上上げ、29年ぶりに2万5000円を回復したほどだ。
だが人類にとっては嬉しい発表であっても、各種の思惑が入り混じる株式市場では異なる。あっちが立てばこっちが立たないということで、上げた株もあれば下げた株もある。
「当然割を食ったのは、コロナ禍でほぼ全産業が苦戦する中で1人勝ちを謳歌していた『巣ごもり』銘柄です。日経平均の大型株が好調な一方、マザーズのメルカリ、BASE、ジャスダックのワークマンなどの新興市場株の下げ幅が大きいのが目立ちました。例えばメルカリは9日の終値が4550円だったものが、10日には4015円にまで下げていますし、アメリカでもコロナ株の筆頭格のZoomが大幅な下げ。ゲーム需要に沸いたソニーの大型株も事情は同じです」(証券会社社員)
一方で上げた中で目立ったのが、今度は逆にコロナで割を食っていた株で、ANAの社員の大量出向が象徴していた運輸株などのバリュー株だ。日本航空の9日終値は1594円だったものが10日には1975円まで上昇、JR東も5529円が10日になると一気に6300円を付けた後、6386円で引けた。GoToトラベルでの旅行業の回復の影響も後押しをしているのだろう。
このように、コロナの暗雲で覆われた今の世の中は、ワクチンの登場の趨勢で白が黒になり、逆もしかりという状況にある。じゃあ、本当にワクチンが登場した時に単純な逆転現象が起きるかと言えばそうではないだろう。
「テレワークを半永久的に導入する企業も増えていて、世間のニュー・ノーマルへの流れが逆行することはないでしょう。ですから、投資家サイドでは巣ごもり需要のグロース株と割を食っていたバリュー株のポートフォリオの組み直しが行われています」(前出・証券会社社員)
対コロナでは用心が必要なように、コロナ狂騒の株価に踊らされることにも用心しておかなければいけないようだ。
(猫間滋)