大統領選に追い風!? トランプが「ノーベル平和賞候補」を素直に喜べないワケ

 トランプ大統領が2021年のノーベル平和賞の候補に名前が挙がったとアメリカ政府が発表、トランプ氏自身も候補入りの報道を10連投して「ありがとう」とツイートを行っているが、果たして大丈夫なのだろうかとすら思える。

 トランプ氏を候補に推したのは、ノルウェーの右派の国会議員。その理由はイスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)の国交正常化を仲介したからだという。だがこの議員、移民の受け入れに強く反対しているというのだから、「牽強付会」というか、政治的な意図が見え見えだ。

 そもそも100年以上の歴史があるノーベル平和賞だが、推薦にあたってはとりわけて明確な基準が設けられているわけではないので、推薦されただけでは栄誉に当たらない。推薦を行う資格があるのは各国の閣僚、国会議員、大学教授、過去の受賞者、過去・現在のノーベル委員会委員等と幅広い。特に各国国会議員や大学教授においてはあまりにも数が夥しく、いくらでもトンデモな人物がその中には含まれ得る。だから推薦されたとはしゃぐこと自体が子どもじみているし、ましてや政府が発表すればむしろ見識すら疑われてしまう。ましてやそこにあたかも権威あるような含みを与えるということになればこれはもうフェイクとさえ言える。

 事実、過去にはあのヒトラー、ムッソリーニ、スターリンさえ候補者入りしているのだから、逆に勝手に候補に挙げられることにはむしろ警戒さえ必要なのだ。

「1939年にスウェーデンの議員がノーベル賞委員会に推薦の書簡を送るということがありました。後にこの議員は皮肉を込めたのだと釈明して推薦を取り消したものの、候補者に加えられた事実に変わりはありません。1935年にはムッソリーニが、1945年と1948年にはスターリンが2度候補に挙げられましたが、これらもやはり皮肉を込めて推薦されたものです」(政治ジャーナリスト)

 変わり種ではかのキング・オブ・ポップのマイケル・ジャクソンや、日本の市民団体の働きかけで「憲法9条」も候補に挙がったことがある。つまりは推薦さえあれば誰でも・何でも候補にはなり得るのだ。だが、選考の対象になるかどうかは全く別だ。この20年ほどは候補者の数が急増していて、300人を超える候補者があるのだとか。

「トランプ氏は2018年にも北朝鮮との和平交渉で候補に挙がったことがあります。この時はトランプ氏が安倍晋三首相から推薦を受けたのだと明かしてちょっとした騒動にもなりました」(前出・政治ジャーナリスト)

 機密にはうるさいノーベル賞では、50年間は候補者を明らかにしない方針を貫くが、推薦者が勝手にペラペラとしゃべるのを禁じているわけではない。

 夏前の調査によれば、支持率でバイデン氏に5%以上離されて大統領再選の大苦戦が伝えられたトランプ氏だが、最近は僅差に縮まってきた傾向にある。だが11月に向けてもはや終盤戦、ノーベル賞の権威を前に、泡沫候補として名前が挙がったことで歓喜してしまうほどトランプ氏は追い詰められているということか。

(猫間滋)

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