「ゾンビドラッグ」とも言われ、米国での乱用が社会問題化している合成麻薬「フェンタニル」の対策を巡り、1月30日、中国・北京で米中政府高官による初の作業部会が開かれた。
フェンタニルは末期がん患者の苦痛緩和のために開発された医薬用麻薬で、強度はヘロインの50倍、モルヒネの100倍とされる。米調査機関の発表によれば、2021年に薬物過剰摂取で死亡した約10万7000人のうち、なんと3分の2の7万人以上がフェンタニルに起因する死亡だという。
フェンタニルはメキシコの犯罪組織・麻薬カルテルにより米国に入ってきているのだが、原料を製造しているのが中国だった。トランプ前大統領は中国に対し、2018年から米国への輸出規制を強化するよう働きかけてきた。バイデン大統領と習近平首席も昨年11月の米中首脳会談で、二国間で協力を進めることで合意している。その合意を受けての今回の政府高官による作業部会だった。
「米国政府がいくらフェンタニルの取り締まりに躍起になっても、海外からの流入に歯止めがかからず、今年11月に行われる大統領選を前にして問題解決が進まないバイデン政権は多大な危機感を持っているのです。大統領選の大きな争点の1つともなっており、共和党の候補者となりそうなトランプ前大統領は、各地を遊説する際、必ず違法薬物のまん延や治安悪化に大幅な時間を割いています。同氏は『麻薬、犯罪者、ギャング、テロリストが記録的なレベルで我が国に流入している。彼らは我々の都市を乗っ取っている』として、自身が大統領に返り咲けば、『麻薬の売人に対して強力な死刑制度を導入する。売人は、その生涯で500人以上の死に責任がある。これが唯一有効な方法だ』とぶち上げ、観衆から支持を得ていますね」(国際部記者)
全米最大の薬物中毒者の巣窟とされ、「ゾンビ・タウン」とも呼ばれるペンシルベニア州フィラデルフィアにあるケンジントン地区では、夜ともなれば、町のいたるところに中毒者が横たわり、また、うろつき回っている。
違法薬物問題が大統領選の1つの争点であるのは間違いないが、この問題は決して選挙パフォーマンスなどで終わらせてはならない真剣に対峙するべき喫緊の課題なのである。
(灯倫太郎)