政府は7月31日、米ファイザー製薬との間で2021年6月までに新型コロナウイルスのワクチン6000万人分の供給を受ける基本合意に達したと発表。ざっと日本国民の2人に1人分がこれで賄われることになる。
これでひとまず一安心と言いたいところだが、国外では先進国による自国ファーストのワクチン“先買い”の争奪戦が行われ、かえって全世界的なコロナ収束の足かせになるのではないかと報じられている。
アメリカの大手総合情報サービス・ブルームバーグは「コロナワクチン確保で富裕国が有利」、ロイター通信は「食うか食われるか…新型コロナ/大国が煽る『ワクチンナショナリズム』」との見出しでその様子を伝えている。
記事によれば、アメリカや欧州がファイザー、ビオンテック、アストラゼネカ、モデルナといったワクチン開発で先行する製薬会社との間で一括購入を進めている現状を報告。これに日本も参加して、今後2年間かけて10億回分がかろうじて生産される見込みのところを、これらの国だけで既に13億回分の先行購入が行われているのだとか。
ただ問題は、コロナは先進国のみならず全世界的な脅威で、“自国ファースト”で済まされる性質のものではないということ。
「国際的な医療関係者の間ではこの“買い占め”が問題視されています。WHOや関係機関を通じてワクチンの供給を調整しようという動きももちろんありますが、統一的な枠組みがなく、有効打は見当たりません。2009から2010年に新型インフルエンザが流行した時も同様の現象が起きましたが、この際には流行が早く収束したため大きな問題とはならずに済みました」(医療に詳しいジャーナリスト)
ただこの時も、例えばオーストラリアが自国の製薬会社に対米輸出の差し止めを行うなどの措置が講じられた。
ことは日本国内でも同じで、要は優先順位がどうなるかの問題だ。
「やはり2009年の時には、『新型インフルのワクチンと季節性インフルのワクチン』、『接種順位』の2つの優先順位の問題が生まれました。前者は未だ感染力や毒性で不明なところが多い新型インフルのワクチンと季節性インフルのワクチンのどっちを優先して製造するかの問題で、後者は誰から先に接種していくかということです」(前出・ジャーナリスト)
医療体制の中で何を優先させていくかに関しては、ワクチンの接種だけにかかわらず、コロナ対策を重視するあまり、他の疾病の処置が遅れたり、コロナのベッド数を増やしたことで全体の診療報酬を圧迫し、経営に跳ね返って経営難に陥る病院が多発している問題もある。
こうした事情もあって、本格的なコロナ治療や入院に関しては、「医療従事者・社会機能維持者」が最優先され、その後に「医学的ハイリスク者(感染すると重篤化する可能性がある人)」、「成人・若年者」、「小児」、「高齢者」の4集団に分けられて優先順位が決められた。この社会機能維持者に政治家の先生方が含まれるべきかどうかという議論はさておき、医療従事者が最優先されるのは妥当な判断とも言える。
そこで思い出されるのが、緊急事態宣言が出される前の4月、橋下徹・元大阪府知事が発熱して仕事をキャンセルし、PCR検査を受けた結果、陰性だったことをテレビで告白した際の事。発熱して高熱に苦しみながらもなかなか検査が受けられない状況が問題視されていた頃のことだ。生放送のテレビ番組内でこの告白を聞いた安住紳一郎アナから「やっぱり元大阪府知事だから優先してみたいなことあったんですか?」とツッコミを入れられて、橋下氏があわてた様子で「厳しい手順を踏みました」と説明する一幕があった。
世界的なワクチン争奪戦が取りざたされる中、国内でもよりいっそう“格差”がさけばれることになるかもしれない。
(猫間滋)