ヨーロッパとりわけイギリスが上を下への大騒ぎで揺れている。もちろん、テリーザ・メイ首相が実現を目論んでいる欧州連合(EU)離脱「ブレグジット」の是非を巡ってだ。
メイ首相がEUと合意した離脱妥協案は英議会で3度否決され、3月29日に予定されていた離脱日を4月12日に延期、それまでに新たな計画を示すか、合意のないまま離脱するか、いずれにせよ混迷の度を増している。
そもそもEUは欧州の28カ国が相互貿易や人の移動を自由にするために作った連合だ。だからEUから離脱すればEU加盟国とイギリスとの間の貿易には関税がかかり、人の移動に制限がかかるのでイギリスへの移民の流入は減るかもしれないが、出入国が不自由になる。
「離脱後には欧州での金融の中心地である“シティ”の地位が陥落し、イギリスから生産拠点が他国に移転し(トヨタや日産などが移転を表明している通り)、イギリスの通貨のポンドの地位が相対的に下がることになります」(経済ジャーナリスト)
その他、様々な変化を含めた経済的影響があまりに大きいため、大騒ぎとなっているのだ。
だが短期的には対応を迫られる企業にとっては大きな出費を強いられるものの、長期的に見れば、金融や生産、企業のサプライチェーンの拠点がパリやフランクフルトなどのEU圏内に移るだけ、経済活動も失うばかりでなくそれはそれで潤う部分もあって、メリット・デメリットの差し引きを考えればそれほど世界経済に与える影響はないのではないかと見ることが出来る。それに、多くの日本人にしてみれば結局は対岸の火事でしかない。それよりもメリットのほうが増えそうなのだ。
例えば、ポンドが下がる代わりに円の価値が上がるので、旅行が割安になり、ポンド建ての金融商品が安く買えるようになる。イギリスからの主な輸入品は自動車、電気機器、薬品、石油、ガスなどだが、これらも同じ理由で安く買える。車好きには高根の花だったジャガーやブルーチーズで有名なスティルトンが今より安く買えるかもしれない。それからイギリスと言って思いつくのがスコッチウイスキーだ。
「イギリスのウイスキー業界は業界団体としてブレグジットに極めて慎重な態度を示していますが、実は既に大きな恩恵を受けているんです。EU離脱を問う最初の国民投票が行われた2016年の後半、折からのポンド安を受けてスコッチウイスキーの輸入量が急増したのです。輸出先で大きく伸びたのがアメリカ、フランスなどですが、日本向けでも8.4%も増加しています」(同前)
本場の香りをさらに安く楽しめる日が近いかもしれない。
(猫間滋)