「くら寿司」が“AIマグロ”販売!特上品を選別する驚きのシステムとは?

 AI(人工知能)関連著書の多くは「単純作業ではなく、人間の勘やコツと言われる能力を必要とする職種は、おそらく10年後もAIに仕事を奪われないだろう」と予想している。

 だが、そんな人間の「勘」や「コツ」をAIが担うとして大手回転寿司チェーン「くら寿司」が7月7日に発表したのが、人間に代わりAIにマグロの「目利き」(目視での品質判定)をさせるという、システムの導入だ。

 同社は新型コロナの感染拡大で、海外での買い付けが事実上難しくなった状況を受け、専用アプリを入れたスマートフォンでマグロの尾の断面を撮影すると、「TUNA SCOPE」(ツナスコープ)というAIが品質を判定してくれるシステムを導入。これにより、マグロの「目利き」を担う職人が、国内外の原産地や加工場に足を運ぶ必要がなくなり、さらに関係者間で迅速に“ビッグデータ”を共有することが可能になるという。

「このシステムは、スマホをマグロにかざすだけで、身の締まり具合や脂の乗り方を分析、A(特上)、B(上)、M(普通)の3段階で評価してくれるというもので、評価にかかる時間はわずか数秒。しかも、結果の85%がその道35年の”目利き職人”の評価と一致したといいますからね。通常、職人が一人前になるには10年以上の経験が必要とされ、さらに後継者不足に悩まされているのが現状です。そのため、経営陣も、『熟練の匠の技とノウハウをAIが受け継いだことで、他の回転ずしでは絶対に味わえない寿司が誕生するはず』と、最大限の期待を寄せています」(食品ジャーナリスト)

 くら寿司では品質を3段階で評価した最高ランクのものを「極み熟成AIまぐろ」(2貫で税別200円)として7月10日から期間限定で販売をスタートさせたが、「舌に乗せた時の濃厚な旨味は素晴らしい!」と、人気も上々のようだ。

 発売前からSNS上には、《職人バイヤーが10年の修行を要する「マグロの目利き」をAIに代替! これは是非、食べ比べて確認してみたい》《これは興味深い! 触覚、味覚+嗅覚にどれだけ対応出来るかが気になる》《統計データはどういうデータベースなんだろう?》 等々、いろいろな意味で興味津々、というメッセージで溢れかえった。

 だが、一方では、《すし職人による目利きでの仕入れがなくなってしまうことで、寿司としての魅力が失われてしまうのでは》《長年の経験や知識に頼らず判断できれば間違いはないと思いますが、ちょっと違和感とさみしさがある》という意見もあり、なかには《AIふぜいが職人の領域にたどり着く日なんて未来永劫無いと思う》といった過激なコメントも……。前出のジャーナリストが言う。

「通常、水揚げされた生の魚は、目の濁りや体の弾力など、質判断の情報量が多く比較的目利きしやすい。その点、マグロは基本、冷凍されたまま運ばれてくるので、尾の断面の色あいなどだけで判断せざるを得ないんです。だから、仲買人の勘と経験値が頼りだったわけです。つまり、今回のくら寿司が行った目利き部分でのAI導入は、業界にとっても画期的な改革だということ。このシステムが定着すれば、仕入れ担当者が現地へ行かなくても遠隔でマグロを買い付けられますからね。今後、マグロ以外の魚種でもAIによる品質判定が加速していくことは間違いないでしょうね」

 長年の経験や知識により備わった「勘」や「コツ」に支えられた職人の技術だが、時代の移り変わりとともに、今まさに大きく変わろうとしているようだ。

(灯倫太郎)

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