「天安門事件」「プーさん」も封殺する中国“言葉狩り政策”のヤバい実態

 アメリカ全土では黒人男性が白人警察官に拘束されて死亡した事件に端を発した人種差別に対して、香港では反体制活動を禁じる「国家安全法制」が導入されることで自由が制限され、なおかつ「1国2制度」を否定するものだとして、対立を深める米中双方で抗議デモが相次いでいる。一方、6月4日は天安門事件があった日。こちらは1989年から毎年開催されてきた追悼集会が今年は行われないことになった。6月1日に香港警察が禁止としたからだ。

「理由はコロナで8人を超える集会は認めないというものですが、5月19日にはこのソーシャルディスタンスの規定を6月4日まで延長していたので、この日を見込んでいたのは明らか。そして大方の予想通り、許可を出さなかったというこものです。分離や扇動、転覆を禁止する国家安全法制がデモの反対もあってすぐさま導入できない中、コロナの規定を都合よく解釈して利用したということです」(中国事情に詳しいジャーナリスト)

 従って、来年も追悼集会が開催できるかどうかは極めて不透明。昨年は30年という節目ということもあって、会場となったビクトリア公園には18万人もの人が追悼に集まった(ちなみに警察発表は3万7000人)。もちろん政治的発言の自由など認められていない本土では不可能なので、マカオか香港でしか行えず、大規模なのはこの香港のものが唯一。ところがそれも、「今後は一切まかりならん」。今回の対応は、そういった中国の強い意志が透けて見える。NHKを含めた国内外のメディアは検証の特別番組を競って制作したが、数少ない口を開く関係者も高齢化し、今後はもう取材も不可能だろうとも言われている。

 天安門事件が中国最大のタブーで、口にすらできないのは有名な話。中国版ツイッターのウェイボーでは、自動アルゴリズムと数万人にも上る検閲官という世界最大の検閲システムで、事件への言及は徹底的に削除される。

「事件のあった日の6月4日から取った『64』というのが事件の隠語になっていますが、その6月4日が近づいた昨年の4月には、『八酒六四』というラベルの酒を販売しようとしたことで2016年に逮捕された香港の4人の男性に最長3年半の禁固刑という判決が下されました。ちなみに、2018年にはなぜか『クマのプーさん』までが検閲・削除の対象になるという珍事が起こりましたた。というのも、プーさんはネット上では習近平を揶揄する時に使う隠語だったからです」(前出・ジャーナリスト)

 それだけ、中国では「言葉狩り」が徹底されているということだ。

 天安門事件といえば、デモの鎮圧に当たって動員された中国国民軍の戦車の前に1人で立ちはだかった、通称、「タンクマン」、「戦車男」の映像が思い出されるが、彼が拘束されてその場から退去させられて以来、その消息は知られていない。

 今年の追悼会が行われないことで記憶が薄れ、来年ともなれば記憶の“痕跡”さえなかったことにされているかもしれない。

(猫間滋)

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