歴史家と戦国マニアが激論バトル「もしも織田信長が総理大臣になったら」

 お上からは「県をまたいでの移動は控えるべし」とのお触れが出され、我々領民はいつ完全終息するかわからないコロナとの籠城戦を強いられている。この未曽有の危機に、人々はどんなリーダー像を頭に描いているのか。そしてもし戦国武将が令和の日本によみがえったとしたら、総理大臣や会社の社長は誰が適任だろうか。

「週刊アサヒ芸能」の歴史顧問と言える「真説!日本史傑物伝」連載中の歴史家・河合敦氏がまず挙げるのは、

「緊急事態、危機の時代には、即断即決が求められますから、織田信長を総理大臣にして、実行に移す官房長官やコロナ担当大臣には、臨機応変に素早く動ける秀吉ということになるでしょう。秀吉は『心に叶いしことあれば、即時に之を行へり』という言葉を残していますしね(『名将言行録』(岡谷繁実著、1854〜69年刊)」

 お笑い芸人にして戦国マニアの桐畑トール氏も「信長推し」だ。緊急時の総理就任に異存はないとしながら、「官房長官やコロナ担当大臣は確かに秀吉、光秀になるんですが、僕は柴田勝家を推したい。勝家は絶対に裏切らないし、信長総理とモメることがないですから。光秀だとスタンドプレーをしそうだし、秀吉なら次の政権を狙ったりしますから。ただ、経済担当大臣には秀吉がいいなと思います。本能寺後の中国大返しの際には、姫路城の蔵の金を全部出したという話がありますけど、ここぞという場面でドンと金を出して、やる気を出させる。秀吉だったらコロナ給付金10万円とかケチケチしないで、ドーンと出すという気がしますね」とし、さらに、「コロナ担当の厚労大臣なら、家康や光秀もいい仕事をしてくれそうですよ、昔から薬にたけていましたから、この二人は。近年、光秀の薬の調合書が将軍家に取り入れられたという文献が出てきたし、家康は自分自身で薬を調合するのが好き。そのおかげで長寿を全うしたという健康オタクですからね」

 コロナ禍で傷ついた会社を立て直してくれそうな社長は誰だろうか。河合氏は、「現在、観光業や飲食関連会社では、ウーバーイーツのような状況を逆手に取って業績を伸ばす新機軸が求められます。新しいことを創造するという意味で信長に仕えていた時代の秀吉が適任です。ネットの時代になって、地方にいても全国を相手に仕事ができる仕組みを考えるなら、信長の小姓から始まって柴田勝家や秀吉に仕え、うまく立ち回りながら加賀百万石を築いた前田利家。そして伊達政宗のような東北の雄みたいな人もコロナ時代の社長になって地域創生をしてほしいですね。観光業などの復活を目指すなら、立花宗茂もいい。宗茂は関ケ原の戦いで西軍について領地を没収されますが、一から出直して徳川の旗本として再就職。その後、東北の小大名に昇進、コツコツ努力を重ねながら最後には元の九州・柳川に返り咲いた人物。敗者復活の代表です。立花家は今も続く料亭旅館を柳川で経営しています」

 一方、桐畑氏は、会社の人事で考えるならやはり信長社長を前提に、謙信が副社長、相談役には中国地方を制した毛利元就が控えていれば安心だと語る。

「謙信もカリスマ性があってトップダウンで率先して引っ張っていくタイプなので総理、社長にもいいんですが、コロナの時代に我慢、我慢ばっかりを言いそうだし、北条方の関東攻めでも領土を家臣たちに与えなかったから、けっこう家臣たちは不満がたまってしまったと思う。ここは信長社長を脇でサポートする副社長あたりで。毛利元就はもともと地方の村長クラスの領土から叩き上げて一代で中国一の大大名になって、自分の息子たち(毛利隆元、吉川元春、小早川隆景)にも、天下まで目指すなよ、みたいなことを言ってますから、創業社長って感じで相談役というのがいいかなと。そうなると会長クラスに武田信玄ですね。どっしりと存在感のある会長がいて、部長クラスに光秀、秀吉あたりがいると社員も働きやすいと思います。そしてさらに下の課長クラスに、真田幸村とか竹中半兵衛なんかがいると、最強の会社ですね。竹中半兵衛は稲葉山城を乗っ取ったりしてお家の立て直しが得意なので工務店の社長なんかがいいかもしれませんが、それじゃ竹中工務店になって、ヤヤコシイ(笑)」

 ただし…。

「これだけ信長を推しておきながら、自分が部下として働くなら、信長株式会社はちょっと厳しそうなので嫌なんですけどね(笑)」

河合敦:1965年、東京都生まれ。早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学(日本史専攻)。多摩大学客員教授。早稲田大学非常勤講師。歴史作家・歴史研究家として数多くの著作を刊行。テレビ出演も多数。主な著書:「早わかり日本史」(日本実業出版社)、「大久保利通」(小社)、「日本史は逆から学べ《江戸・戦国編》」(光文社知恵の森文庫)など。

桐畑トール:1972年、滋賀県生まれ。滋賀県立伊香高校卒業後、上京しお笑い芸人に。2005年、オフィス北野に移籍し、相方の無法松とお笑いコンビ「ほたるゲンジ」を結成。戦国マニアの芸人による戦国ライブなどを行う。「伊集院光とらじおと」(TBSラジオ)のリポーターとしてレギュラー出演中。現在、TAP(元オフィス北野)を退社しフリー。

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