世界の福本豊<プロ野球“足攻爆談”>「オールスターで始まった伝統の守備」

 盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!

 プロ野球が6月中の開幕を目指すことになった。新型コロナウイルスの感染拡大も収まりつつあるので、もう少しの辛抱やね。ただ残念なのは、70年の歴史を持つオールスターの中止が決まったこと。3カ月遅れの変則日程となるし、しかたがないかな。

 現役時代はファン投票で選ばれることを励みとしていたし、昔のパ・リーグの選手にとって、オールスターは日本シリーズと並ぶ「ひのき舞台」やった。50試合に出場して、通算最多の26盗塁を記録できた。でも、毎回プレッシャーとの戦いやった。塁に出たら、とにかく走らなアカンのやから。まずスタートを切らないと、「走るのを見に来たのに」とファンに言われるから大変やった。相手も走るのをわかっている中で、いつもアウトを覚悟してスタートを切った。

 いちばん最初に思い浮かぶのは、1974年の第2戦目の西宮球場での試合。ホーム球場でオールスターに出られるのは、ほんまに名誉なこと。スタンドも満員で、ふだんとはまったく雰囲気が違っていた。最大の見せ場となったのは、1点リードされた5回のセンターの守備。走者を2人置いて田淵さんの打球が左中間に上がった。打った瞬間に「ホームランやな」と思いながら、落下点に一直線で向かった。金網フェンスに足をかけて、パパッと登って上を見たら、ちょうどボールが落ちてきて。グラブを差し出すタイミングもばっちりで、完全なホームランをもぎ取ってしまった。お客さんも大喜びやった。余談やけど、このあとから阪急の選手はフェンスを登って捕る練習を本格的に取り入れたんや。大熊さんが79年に兼任コーチになってからは、特に力を入れた。後ろの打球だけでなく、前の打球に対しても、バレーの回転レシーブのような捕り方を特訓させられた。81年には、山森がフェンスによじ登って捕るスーパーキャッチを見せて、クーパーズタウンの野球殿堂でも映像が流されることになった。世界を驚かすプレーやったけど、阪急の外野手からしたら、ふだんから練習している当たり前のプレー。「鉄壁の外野の伝統」は球団名がオリックスに変わっても、イチローらに受け継がれた。今のオリックスの選手も「外野の守備だけはどのチームにも負けない」というプライドを持って、頑張ってほしい。

 その試合に話を戻すと、1点リードの7回二死走者なしで4打席目が回ってきた。そこまで二塁打と2四球。ベンチでは「ファインプレーがあったから、もう1本ヒットを打てばMVP確実やで」と冷やかされて向かった打席やった。そして、星野仙一さんの外角のスライダーを上から叩くと、左翼へのホームラン。別に狙っていたわけではないけど、ダイヤモンドを一周するのは最高の気分やった。オールスターでいただいた3回のMVPはどれもうれしかったけど、本拠地でのMVPはこの時だけ。やっぱり格別やった。

 昨年のオールスターでは阪神の近本が甲子園でサイクル安打を達成して、MVPに輝いた。あれで一気に名前を売ったし、その後のシーズンも突っ走れた。今年、そういう飛躍の舞台を見られないのは、寂しい。とはいえ、今はどんな形であれ、1日も早い開幕を願うばかりや。CS放送などで昔の試合をよく流しているけど、結果がわかっていても見てしまう。やっぱり野球はおもしろいわ。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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