新型コロナウイルスはレベル3の施設で扱うと聞いて、違和感を抱いた読者もいるかもしれない。手を洗えば感染を防げると言われながら、片やバイオハザード施設で防護服を着て取り扱う「ダブルスタンダード」。
そう、国内の混乱に拍車をかけているのは、政府と専門家会議の詭弁に満ちたこの「ダブルスタンダード」の釈明だ。
「手洗いを徹底すれば感染が防げる」「マスクは不要」と言われ、新型コロナウイルスが蔓延したダイヤモンドプリンセス号にスーツ姿の厚労省職員が乗り込んでいく一方で、検査時にはレベル3の施設で防護服を着用しなければならず、検査を求める開業医たちに対し専門家会議は「新型コロナウイルスに対峙する覚悟はできているのか」と恫喝する。そこまで危険を孕んだウイルスならば、なぜ政府は春節前に水際防止策を取らず、国民や医療従事者が身を守るために必要なマスクや防護服をみすみす中国に送ったのか。
この整合性を欠いた安倍総理の不可解な言動こそが、「検査潰し」第3の事情である。
「全国の学校を一斉に臨時休校にするという発表は当日まで加藤勝信厚労相(64)と萩生田光一文科相(56)には知らされませんでした。3月5日に発表された、中国と韓国からの入国者の隔離も、医学的妥当性があるか専門家会議への打診はありませんでした。安倍総理の言動には何の整合性と医学的根拠もないのです」(厚労省幹部)
そしてこの幹部は、安倍総理の決断が医学的根拠よりも、財界の意見に振り回されていることが混迷の元凶だと指摘する。
「例えば栄研科学という都内の臨床検査薬企業はいち早く新型コロナウイルスの遺伝子を検出する技術を開発している。島津製作所もPCR検査を確立しています。ところが政府と経産省は2月25日になって突然、キヤノン子会社のキヤノンメディカルシステムズが、栄研科学の手法を用いた検査システムと、杏林製薬の検査機器『ジーンソック』を取り上げ、新型肺炎の検査で実用化を目指すと説明しました」
政府と経産省の発表を受け、翌2月26日、東証1部銘柄の9割近くが下落する中で、杏林製薬の親会社であるキョーリンHDの株価は一時、前日比5.4%高の2179円と反発し、キヤノンの株価も前日比、2%以上、上がった。
ちなみに同日、政府は新型インフルエンザ治療薬「アビガン」を新型肺炎治療に使うとも発表。開発した富山化学の親会社、富士フイルムHDの株価も9%高に迫る5890円まで上昇した。
これに違和感を覚えた研究者はこう疑念を呈する。
「ジーンソックの技術は筑波にある産業総合研究所が開発した技術でした。それを杏林製薬が商品化したのですが、過去のデング熱流行時のトライアルで、検査精度に難があると指摘されているのです。検査件数に限界はあれど、現在国立感染研の行っているPCR検査に代わる検査方法ではありません。もし2社の技術を政府主導で保険診療に組み込むようなことがあれば、健康保険制度を悪用した利益供与と誤解を招きかねません」
那須優子(医療ジャーナリスト)