稲葉篤紀代表監督のキャンプ視察が始まった。それと同時に見えてきたのは各球団との「駆け引き」だ。その様子が分かったのは、2月3日、中日キャンプを視察したときのことだった。期待する中日選手の名前を聞かれた稲葉監督は、高橋周平、大野雄大、梅津晃大を挙げた。高橋をいの一番に挙げた理由が興味深い。
「やっぱり、三塁手だし、左バッターだから」
プレミア12で世界一を奪回したものの、課題は残った。外国人投手特有のムービングボールにも手こずったが、「左打ちのスラッガーが少ない」という、野手陣のバランスの悪さも指摘されている。したがって、右投左打の高橋に期待するのは当然だが、こんな声も聞かれた。
「昨秋のプレミア12大会の代表選手が発表される前も、左打ちのスラッガーが少ないという話は出ていたんです。選ばれた選手の中から故障などの辞退者が出て、丸佳浩が追加招集されましたが、他選手の名前もあがっていたんです」(球界関係者)
辞退者が出る前、最初の28人の代表選手が発表されたときのことだ。稲葉監督ら首脳陣が「左打ちのスラッガー」としてチェックしていたのは、埼玉西武・森友哉だった。森は19年のパ・リーグ首位打者。豪快なホームランが売りでもある。落選の理由は捕手というポジションのせいではなかったという。
「選手選抜ですが、発表前に内々に全球団と相談していました。『選んだら、来てくれるのか?』と。森の場合、選ばれなかったのか辞退したのか、詳細はわかりませんが」(同前)
つまり、稲葉監督が「期待する選手」として記者団の前で名前を言う前に、球団側と「選んだら来てくれるのか?」の確認がされているというのだ。よって、今回、名前の出た高橋、大野、梅津の3人に関しては、球団側が「本人たちにその気がある」と水面下で回答したと見るべきだろう。
「高橋の名前を挙げた後、左バッター不足の話を切り出したのは稲葉監督のほうです。この左バッターという言葉には、プレミア12大会で選手を派遣できなかった阪神、千葉ロッテにも向けられているようです」(同前)
つまり、「左打ちの選手が活躍したら、選びますよ」ということだ。東京五輪の代表はプレミア12よりも4人減って、24人となる。稲葉監督はキャンプを視察しながら、選手選抜の基準も伝えているようだ。
(スポーツライター・飯山満)