2021年1月の党大会で、「国防科学発展及び武器体系開発5ヶ年計画」を発表した北朝鮮。その内容は、ミサイル発射実験を中心に「核兵器の小型化・軽量化や戦術核兵器化」「原子力潜水艦と水中発射核戦略武器の保有」等々で、同国は計画の推進に注力してきた。
そんな計画の最終年となった今年の4月、北朝鮮は黄海側の南浦造船所で建造していた5000トン級駆逐艦「チェ・ヒョン(崔賢)」の第1号艦の進水式を行い、数日後には兵器実験を決行。計画推進の順調な成功を内外にアピールしていた。
ところが5月21日、日本海側の清津造船所で行われた2号艦の進水式の際、同艦の進水過程で事故が発生。2号艦が水中に横転するという無残な姿が世界に配信されてしまったのである。
「この大型戦艦は、金正恩総書記が北朝鮮の威信をかけ製造を指示したともので、政府発表によれば同戦艦は全長117メートル、幅16メートルで、基準排水量は5000トン。海上自衛隊のイージス艦『こんごう』よりは一回り小さいものの、超音速巡航ミサイルや戦略巡航ミサイル、対空ミサイルほか、127ミリ艦上自動砲も搭載。さらに対艦戦術誘導兵器、艦上自動機関砲、電子障害砲などの機器を備えるなど、高度な戦闘適用性を持つ大型戦艦として、正恩氏も大きな期待を寄せていたようです」(北朝鮮ウォッチャー)
しかも、4月に行われた駆逐艦進水式において、「海軍力現代化の突破口が開けた」と誇らしげに語っていた正恩氏。それだけに、この前代未聞の大失態に対し、「単に不注意と無責任、非科学的な経験主義によって生じたあり得ないこと。到底容認できない深刻な重大事故で、犯罪的行為」とブチ切れ。党と軍、司法機関すべての総力をあげ、事後処理を進めると宣言したと報じられている。
「この事故で正恩氏の面子が丸潰れになったことは間違いない。当然、責任者である党幹部は更迭後、ことによれば死刑に処される可能性もある。近年、党内ではロシアからの物資や外貨流入もあり、党幹部による金銭腐敗が進み規律の乱れが目立つようになっていると伝えられます。今回の事故も、前回の駆逐艦進水式で欠陥が見つかっていたにもかかわらず、そこを補修していなかったことによるものとの指摘もあるという。いずれせよ、進水式で船が沈むなどあってはならぬことで、世界に恥を晒してしまった。担当幹部らに対し相当厳しい処分が下されることだけは間違いありません」(同)
しかも北朝鮮国内では、正恩氏の怒りを増幅させるある問題も勃発しているという。それが国内で大量に出回っているという偽札問題だというのだ。
韓国情報筋の情報によれば、現在、首都平壌をはじめ、北朝鮮全土で大量に出回っている偽札は北朝鮮ウォンのほか、中国元や「トンピョ」と呼ばれる金券で、当局も取り締まり強化に努めているものの、流通に歯止めがかからないのが現状だという。
「トンピョというのは、朝鮮中央銀行が発行する臨時の金券のこと。あとは北朝鮮の5000ウォン札と中国の20元札の偽札が大量に出回っているようです。むろん、当局としては偽札の使用はもちろんのこと、所持するだけでも厳罰に処すとの通達を出しているものの、没収した代わりにホンモノと交換してくれる訳ではないため、申告する市民はほとんどおらず、結果、偽札の流通が加速しているようです」(同)
肝いりで製造した駆逐艦事故と、歯止めがかからない偽札流通。金総書記にイライラは募るばかりのようだ。
(灯倫太郎)