創業者の木村勉氏が昭和46年(1971年)に京都で始めたラーメンの屋台が発祥で、全国に200以上の店舗を展開。創業50年を迎えた2021年には年商200億円超えしたとも伝えられていたラーメンチェーン「天下一品」(本社・滋賀県大津市)。
ところが、そんな「天下一品」が東京、神奈川、埼玉の少なくとも10店舗を2025年6月30日で閉店することが明らかになり、SNS上では「#天一閉店」「#天一ロス」といったハッシュタグが登場。熱烈ファンによる嘆きの声が広がっている。
「現在、『こってり系』には『野郎ラーメン』や『ラーメン二郎』などさまざまな店舗がありますが、天下一品の代名詞である『こってり』ラーメンは、創業者の木村氏が3年9カ月の歳月をかけ完成させたという、鶏ガラスープと野菜をじっくりと煮出した濃厚なスープが特徴。首都圏では34店舗を営業していたものの、SNS上には5月初旬頃から閉店情報が拡散されはじめ、最近では店頭に貼られた閉店告知写真が続々投稿。《学生時代から10年以上通ったのに…》《もうあの味が楽しめないと思うと残念》など、閉店を悲しむ声が多く寄せられる事態に発展しています」(フードジャーナリスト)
6月30日で閉店することが明らかになっているのは、渋谷店、新宿西口店、池袋西口店、田町店、目黒店、吉祥寺店、蒲田店、川崎店、大船店、大宮東口店の10店舗だが、現時点で同社は閉店の経緯を明確にしていない。
「どこの店舗も客が途切れず入っている印象で、売上高推移に関しても、グループが経営不振に陥っているといった情報は一切耳にしていません。コロナ禍でもデリバリーやテイクアウト対応を強化し、2023年4月期は売り上げも115億3万円超と順調に回復していると伝えられていました。そんなことから、この閉店ラッシュには首を傾げる業界関係者も少なくありません」(同)
ここ数年の「原価率の高さ」が天下一品に限らず、飲食店に多大な影響を与えていることは間違いない。特に独自のこってりスープが熱烈なファンを持つ同店のこと。物価が高騰しているとはいえ、安易に原材料や調合を変え仕込みにかかる手間を省けば、ファンが離れていくことは必至で、妥協するわけにはいかない。加えて、天下一は渋谷や新宿など首都圏に多数出店しているため、店舗には必然的に「高額な家賃」が発生するはず。結果、それが経営を圧迫する要因となっていたのか。
「昨今のラーメン業界では『1000円の壁』という言葉があるように、1000円を超えると客足が遠のくともいわれています。天下一の場合、『こってり 並』は940円で、かろうじて『壁』には届いていないものの、ライスやトッピングなどサイドメニューを頼むと1000円を超えます。価格だけで中華そばを比較するなら、競合する『日高屋』が420円で、『幸楽苑』の『中華そば』は490円、さらに『餃子の王将』の『餃子の王将ラーメン』も748円と、天下一品のラーメンよりは低価格になる。ただ、味はその人の嗜好で左右されるため、好きか嫌いを値段だけで判断することは難しい。とはいえ、物価が上がり続ける一方、給料が上がらない今、外食を控えたり価格で選ぶ消費者も多くなったことは事実で、そういった部分の影響も推測されます」(同)
時代の流れとともに、変化することを余儀なくされる飲食業界。そう考えると天下一品の大量閉店もいたし方がないとも思えるが、長年通い詰めた熱烈ファンの間で広がる「天下一ロス」はしばらくの間続くことになりそうだ。
(灯倫太郎)